病態
日本近海では生命を脅かす海洋生物はまれであるが,沖縄県・琉球海域では,美しいサンゴや色鮮やかな熱帯魚を間近に見ることができる一方で,刺症,咬症を引き起こす危険生物が多く生息する.水着皮膚炎(プランクトン皮膚炎)やクラゲなどの刺胞動物による皮膚障害は頻度が高く,ほかにウミケムシなどの環形動物,タコなどの軟体動物,オニヒトデなどの棘皮動物,オニダルマオコゼなど魚類,ウミヘビなどにより,多くは遊泳中に受傷する.なかでも,沖縄地方に特有なハブクラゲ,オニヒトデ,オニダルマオコゼなどは非常に危険であり,刺症による重症例や死亡例が発生する.
1.刺胞動物による皮膚障害
クラゲやイソギンチャクなどの刺胞動物は,触手に刺胞を有しヒトの皮膚との接触により刺胞内の刺糸の毒素が注入され皮膚を障害する.疼痛,灼熱感,発赤,浮腫,膨疹,水疱,皮膚壊死などを生じる.
1)ハブクラゲ
①沖縄・奄美地方から東南アジアに生息するハブクラゲは,1mにも及ぶ非常に長い触手をもつクラゲであり,その触手には非常に毒性の強い刺胞が数多く存在する.世界的にも毒性の強いクラゲ種であり,中枢神経障害,呼吸抑制,血圧低下を生じ,小児では時に死に至ることもある.例年100例近くのハブクラゲ刺症が報告されており,大部分が7~9月にかけて発生している.②ハブクラゲ刺症では強烈な疼痛を伴い,鞭で打たれたような多数のミミズ腫れを呈し,皮膚壊死より醜悪な肥厚性瘢痕を残すことがある(図30-1)図.受傷直後であれば,食酢をかけてから触手を取り除くことで症状を緩和することができる.沖縄のビーチにはクラゲ侵入防止ネットと食酢が準備されている.
2)ウンバチイソギンチャク
①岩や海藻,サンゴに色や形が似ているので,シュノーケリング中に誤って触り受傷することが多い.②ハブクラゲと異なり,ウンバチイソギンチャクに対しては食酢の使用をしてはならず,海水や