診療支援
患者説明

甲状腺クリーゼ
赤水尚史
(神甲会隈病院・副院長)

1.現在の病状・病態の説明

 コントロール不良な甲状腺中毒症では,感染,手術ならびに種々のストレスを誘因として,発熱,循環不全,ショックならびに意識障害などをきたし,生命の危険(致死率10%以上)を伴う場合があります.このような生命を脅かすような甲状腺中毒状態は甲状腺クリーゼ(thyroid stormまたはthyroid crisis)とよばれます.

 多臓器における非代償性状態を特徴とし,発熱,循環不全,意識障害ならびに下痢・黄疸などを呈します.発症機序は不明です.甲状腺機能検査では,通常の甲状腺中毒症と区別できず,臨床的症状・徴候に基づいて診断されます.甲状腺ホルモンレベルが著明に高くない場合でも発症することがあります.原疾患はほとんどがバセドウ(Basedow)病〔グレーヴス(Graves)病〕です.特に未治療や治療中断のバセドウ病患者が甲状腺クリーゼ患者の多数を占めます.

 このような状況下で,的確に甲状腺クリーゼを診断し,早期に治療を開始することが重要です.日常診療で汎用される診断基準や診療ガイドラインは,2000年代中期まで皆無でしたが,2012年に日本甲状腺学会および日本内分泌学会によって診断基準が作成されました(表1).また,両学会は,全国疫学調査を2009年から実施し,発症率が約250例/年,致死率が約11%であることを明らかにしました.さらに,治療アルゴリズムを含む診療ガイドラインが2016~2017年に作成されています.

2.治療(検査)目的

 甲状腺クリーゼは,多臓器不全と非代償的重篤状態を特徴とする致死的な状態です.したがって,検査としては甲状腺機能のみならず,全身状態や罹患臓器の把握と重症度の評価をするための検査を行います.治療は,甲状腺中毒症の改善,各臓器不全に対する介入,全身状態の保持・改善を目指します.甲状腺クリーゼの可能性がある場合は,早期治療

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