診療支援
患者説明

認知症
三村 將
(慶應義塾大学医学部精神・神経科学教室・教授)

 認知症とは,いったん正常に発達した認知機能や精神機能が後天的な脳の障害により低下し,日常生活・社会生活に支障をきたしている状態を指します.認知症の病因となる疾患は多岐にわたりますが,中心はいわゆる四大認知症,すなわち3つの神経変性疾患〔アルツハイマー病(Alzheimer’s disease;AD)ないしアルツハイマー型認知症,レビー小体型認知症,前頭側頭葉変性症〕と血管性認知症です.

 現段階で,認知症の根本的な治療法はまだ確立されていません.したがって,対症的な薬物療法に偏ることなく,個別性の高い全人的な対応法や,家族や地域を含めた心理・社会的なかかわりが求められます.また,患者さんの意思や尊厳を重視するとともに,家族や介護者に寄り添い,心を配るという視点も重要です.最近では,認知症の防御因子として,運動,適切な食事,余暇活動,活発な精神活動,社会参加,身体疾患の管理などが挙げられています.

 ここでは,認知症の半数以上を占めるADに関する薬物療法を中心に説明します.ADに対して薬物療法を行う場合,患者さんは自己の状態に対する気づきが乏しく病識を欠くことや,意思決定のプロセスも障害されていることが多いです.このような場合でも,まず患者さん自身にしっかりと治療方針の説明をしましょう.そのうえで,本人の理解や判断が十分ではないと感じた場合は,家族(介護者)にも合わせて薬物療法のリスクとベネフィットとを説明する必要があります.

1.中核症状に対する治療

1)現在の病状・病態

 認知症の症状の中核をなすものは,記憶や見当識,理解,計算,言語,判断など,認知機能の障害です.これらの認知障害が意識の障害で生じている場合は基本的には認知症とはよびません.認知症に対して,逆に日常生活が障害されていない程度の認知機能低下の場合は,認知症とはいわず,その前段階ないし予備群とみなされ,軽度認知障害と

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