診療支援
患者説明

がん治療による心血管障害
寺井和生
(西新橋クリニック・副院長)

1.現在の病状・病態

 化学療法(抗がん剤治療)や放射線(胸部や頸部への放射線照射など)治療中の全身への影響はよく知られていますが,最近の研究報告では,治療後,しかもかなり経過した後に心血管障害をもたらし,生活の質や生命予後を左右することがわかってきました1~3).がん治療が奏効し,長期に生存する方が増えてきたことで,明らかになったものです.その機序は不明なことが多く,心血管系に多岐に影響し4,5),心筋障害(心筋炎,心不全など),冠動脈疾患(狭心症,心筋梗塞など),心臓弁膜症,心膜合併症(心膜炎など),不整脈,高血圧,血栓塞栓症(下肢深部静脈血栓症,肺塞栓症など),末梢血管疾患(下肢動脈狭窄など)および脳卒中,肺高血圧症などがみられ,自覚症状も多岐にわたり,循環器疾患と気づかないことも多いかもしれません.

 これらの心血管障害は,がん治療前にあるさまざまな患者背景(年齢,性別,喫煙の有無,循環器疾患の既往の有無,生活習慣病の有無など)による心血管予備能の低下を背景に,がん治療によるダメージが加わり,当初は自覚症状に乏しいことも多く,それを放置していると徐々に進行していくと考えられています6)

 がん治療中,あるいは治療後は全身倦怠感,嘔気などの自覚症状があることが多いと思います.多くはがん治療に伴うものですが,それらの症状が心血管障害によるものの可能性もあり,がん治療関連心血管疾患があることを認識し,早期に腫瘍循環器医による診療を受けることは大切です.最近では,それらのがん治療関連心血管障害を診療する腫瘍循環器外来を標榜する病院も増えてきています7,8)

2.がん治療における循環器医による診察・治療目的

 これらのがん治療による心血管障害の発現頻度は高くはありませんが,心血管障害の程度次第では,がん治療を中断,あるいは遅延することもあり,その結果,患者の予後に影響を与えることも

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