異常値のでるメカニズムと臨床的意義
薬物の作用には個体差があることは,古くから知られていることであるが,その原因について詳細な検討が行われるようになったのは比較的最近になってからである.薬物作用の個体差は,薬物体内動態の個体差と,薬理反応の個体差にその原因を求めることができる.
薬物体内動態の個体差の原因としては,後天的な要因(臓器障害や疾患,年齢など)もあるが,近年では先天的(遺伝的)要因に注目が集まっている.特に薬物の代謝過程には,先天的な個人差が大きい.お酒に強い人と弱い人ではアルコールの解毒能力にかなりの個人差があるのと同様に,薬の解毒代謝能力にも体質的(=遺伝的)に個人差がある.薬物動態を論ずるうえでは,特定の代謝酵素の活性が欠損(または極端に低下)している患者はpoor metabolizer (PM)と呼ばれる.これに対して,通常の解毒代謝活性を有する患者はextensive metabolizer (EM)と呼ばれる.
近年では,多くの薬物について,主にどの代謝酵素,どの分子種によって代謝されるか,ということが知られるようになってきた.そして,ある薬物がほとんど単一の代謝酵素やCYP分子種によって解毒代謝されるような場合には,その薬物をその酵素についてPMの患者に投与すると,著しく血中濃度が上昇し,副作用などの問題が生じる.したがって,薬物を投与する前にその薬物のその患者における代謝酵素の機能をあらかじめ診断できれば,薬物の投与量を適正に設定できることになる.
ある代謝酵素についてEM,PMを判定する方法の1つとして,酵素活性の変化を引き起こす遺伝子の変異を診断するという方法がある.
患者における代謝酵素の機能は1組の対立遺伝子(アレル)により規定される.2本のアレルの遺伝子型がいずれも野生型の場合,酵素活性は野生型(多くの場合EM)を示し,2本のアレルが両
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