診療支援
治療

過敏性腸症候群
irritable bowel syndrome(IBS)
金子一郎
((独)国立病院機構京都医療センター・救命救急センター長)

A.疾患・病態の概要

●過敏性腸症候群の発生率は国・地域によって異なるが,欧米では8~20%の成人がその症状を呈しているともいわれている.また,男性より女性の方が多いとされている.小児過敏性腸症候群の患者の発生は,年齢とともに増加する.

●「炎症や潰瘍など器質的異常がないにもかかわらず,腹痛,便秘・下痢などの症状が慢性的に持続する状態」である.原因は不明であるが,精神的な不安や過度の緊張が引き金になることから,心理的要因が関与することが多い.

●IBSの病態は,消化管運動異常,消化管知覚過敏,心理的異常の3つからなる.消化管運動異常は刺激に対しての小腸,大腸の運動亢進であり下痢がその症状となる.消化管知覚過敏は腹痛や腹部不快感として発症する,心理的異常としては,抑うつ・不安などが代表的症状である.

●病因として,心理的要素,神経伝達物質,炎症,内臓の過敏,消化管運動の異常,などの複合的要素が考えられる.心理的要因として,医療機関を訪れる患者の40~60%が抑うつ,不安,身体化障害などの心理的症状を持つ.半数以上の患者で,症状の発症前にストレスフルな出来事が先行していると報告されている.ストレスが消化管機能に影響することはよく知られているが,IBSの患者は,正常の場合に比べ大腸の運動性の反応が過敏である.大脳辺縁系が関与していると考えられている.副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン(CRH)の関与が有力視される.神経伝達物質として,IBSに神経伝達物質であるセロトニン(5-HT:5-hydroxytryptamine)の関与も報告されている.セロトニンは中枢神経系に5%,消化器系に95%が存在し,体内に放出されると腸管の外分泌,蠕動反射が起こり,腹痛や悪心・嘔吐が発症する.炎症の関与は,局所の炎症によって引き起こされる炎症性サイトカインが感覚過敏や蠕動異常に関与しているかもしれない.


B.

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