診療支援
治療

精神科疾患
mental and behavioural disorders
上條吉人
(北里大学診療准教授・救命救急医学)

A.疾患・病態の概要

 「精神科救急」で取りあげられる精神科疾患以外で当直などで遭遇する可能性のあるものを中心に取り上げる.

●パニック障害:強い不安・恐怖を伴う,動悸,胸痛,窒息感などの症状(パニック発作)が突然に生じて,循環器系疾患や呼吸器疾患などを疑われて救急搬送されることがある.なんの誘因もなくパニック発作が生じること,また,薬物療法が有効なことなどから生物学的要因が疑われている.

●解離性昏迷:昏迷とは,意識は保たれているのに外的刺激にまったく反応せず,自発的な運動や発語がない状態で,昏睡などの意識障害を疑われて救急搬送されることがある.このうち解離性昏迷は若い女性に多く,対人関係のトラブルなどの社会的,環境的,心理的な問題が心因となって生じる.解離性障害や精神発達遅滞などの精神科疾患を背景とする不適応反応として出現することが多く,葛藤や不安からの現実逃避としての不随意な症状と考えられている.

●緊張病性昏迷:解離性昏迷と同様に,昏睡などの意識障害を疑われて救急搬送されることがある.緊張病性昏迷は,緊張型統合失調症などの精神科疾患を背景としているものが多いが,身体疾患,または,薬物を背景としているものもある.

●境界性パーソナリティ障害(borderline personality disorder:BPD):手首切創,過量服薬などの自傷行為または自殺企図により救急医療を受診し,時に反復される(リピーター).女性に多く,思春期に顕在化し,青年期の人生を障害する.対人関係,情動,認知,行動などの人格の様々な側面に関して極めて不安定で,“安定した不安定さ”と表現される.また,慢性の虚無感が特徴である.性的逸脱行為,浪費,過食,薬物乱用などを認めることがある.電話やメールなどでほのめかしてから,もしくは,相手の目前で衝動的に自傷行為または自殺企図に及ぶことが多い.

●外傷後ストレス

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