診療支援
治療

骨盤外傷
pelvic fracture
大友康裕
(東京医科歯科大学大学院教授・救急災害医学)

A.病態

1発生機序と病態

●骨盤骨折では,しばしば後腹膜へ大量に出血する.特に骨盤環が破砕される不安定型骨盤骨折は,内腸骨動脈領域の血管が損傷される場合が多く,大量後腹膜出血によりショック状態となる危険が高い.また不安定型骨盤骨折は,大きな外力によって発生するため,多発外傷であることが多い.そのため,特に緊急性の高い外傷として認識しておく.

●重症骨盤骨折に伴う後腹膜への出血量は,1,000~3,000mL程度であるが,これに尿路系の損傷や会陰の開放創(開放性骨盤骨折)が合併すると出血量は,4,000~5,000mLにも及ぶ場合がある.不安定性の骨盤骨折が確認され,外尿道口からの出血や会陰部の出血を認めた場合には,最重症の骨盤骨折と考え,対応する.

●膀胱・尿道は恥骨結合のすぐ後方に近接し,前方の骨盤骨折によって損傷を受けやすい.膀胱損傷は腹膜外と腹膜内に分類されるが,骨盤骨折に合併するものは多くが腹膜外損傷である.尿道損傷は前部尿道損傷(球部,振子部)と後部尿道損傷(前立腺部,膜様部)に分けられ,骨盤骨折に合併しやすいのは後部尿道損傷である.直腸は仙骨・尾骨のすぐ前面に位置し,転位した骨片により損傷を受けることがある.

2分類

①「日本外傷学会骨盤骨折分類2008」によれば,骨盤骨折は作用する外力の方向により前後圧迫型(AP compression),側方圧迫型(lateral compression),垂直剪断型(vertical shear)に分類される.他方,後腹膜への大量出血の頻度および予測出血量という観点からの重症度で見ると,安定型と不安定型に大きく分類できる(図1).垂直剪断型は,不安定型骨盤骨折となる頻度が高く出血量も多くなる傾向があり,最も重篤なタイプである.ただしそれぞれの型の間には非典型例や移行型が存在するため,明確に判断しにくい例もある.

②寛骨臼骨折は恥坐骨

関連リンク

この記事は医学書院IDユーザー(会員)限定です。登録すると続きをお読みいただけます。

ログイン
icon up
あなたは医療従事者ですか?