A.病態
●肩とは体幹と上肢が接している部分であり,肩関節とは肩甲上腕関節を含む複合関節を指す.肩関節は球関節構造を呈しており,多くの筋肉で構成されていることから複雑な運動を強い力で行うことが可能となっている.
●治療介入が必要な肩の外傷を負っている傷病者は強い外力にさらされているため,生命予後を左右する外傷を優先して診療することを念頭に置く.
●単純X線写真だけでは診断をつけられない骨折や脱臼が存在するため,断定的に診断を告げることがないようにする.
B.初療と診断
1初療室で
①secondary surveyにて,肩周囲の腫脹・変形,打撲痕の有無を診察する.患者に意識がある場合は,自発痛,圧痛を問診するとともに,触診で丁寧に不安定性,軋轢音の有無を確認する.続いて肩関節の自動運動や関節可動域の制限を診察する.患側の診察だけでは判別がつかない場合は,必ず左右差を比較する.外傷の存在が疑われた場合は,受傷部位よりも末梢の脈拍,感覚,運動に関する障害の有無を検索する.
②初療の段階では単純X線による診断が主となるが,必要に応じてCTやMRIを組み合わせることで診断精度を上げるように心がける.
2身体所見
1肩甲骨骨折 疼痛など一般的な骨折症状とともに,疼痛による肩関節可動域制限をきたすことがある.骨折部位によって,①体部骨折,②頸部骨折(解剖頸骨折,外科頸骨折),③肩甲棘骨折,④肩峰骨折,⑤烏口突起骨折,⑥関節窩骨折に分類される(図1図).80%以上の確率で同側の肺損傷,胸郭損傷,上肢損傷を認めるため,他の合併損傷を見落とさないようにする.
2肩鎖関節脱臼 肩峰上に脱臼した鎖骨遠位端を触知することがある.鎖骨を押し下げることで整復位が得られるが,圧を解除すると元に戻るためpiano key signと称される.肩関節の挙上制限が認められることがある.
3肩関節脱臼 成人の脱臼で最も多く,肩峰が突
関連リンク
- 今日の救急治療指針 第2版/脱臼整復法
- 今日の整形外科治療指針 第8版/スポーツによる上腕の外傷・障害
- 今日の整形外科治療指針 第8版/橈骨頭骨折,橈骨頚部骨折
- 今日の整形外科治療指針 第8版/三角線維軟骨複合体 (TFCC) 損傷
- 今日の整形外科治療指針 第8版/中手骨骨折
- 今日の整形外科治療指針 第8版/PIP関節脱臼骨折
- 今日の整形外科治療指針 第8版/Femoroacetabular impingement(FAI)
- 今日の整形外科治療指針 第8版/膝蓋骨脱臼
- 今日の整形外科治療指針 第8版/足関節果部骨折
- 今日の整形外科治療指針 第8版/遠位脛腓靭帯損傷
- 今日の診断指針 第8版/腰椎椎間板ヘルニア
- 今日の小児治療指針 第17版/肘内障,上腕骨顆上骨折,上腕骨外顆骨折