Ⅰ.大腿骨近位部骨折
A.病態
●大腿骨近位部骨折は人口高齢化に伴いわが国でも増加しており,年間10万人以上の発生が報告されている.大腿骨近位部の骨折は,関節面に近い側からa.骨頭,b.頸部,c.頸基部,d.転子部・転子間,e.転子下に発生する(図1図).このうち,頸部骨折・頸基部骨折・転子部骨折は主として高齢者の転倒による低エネルギー損傷の結果として生じるが,骨頭骨折・転子下骨折は交通事故や労働災害などの高エネルギー損傷の結果として生じることが多い.転子下骨折は,転移性骨腫瘍による病的骨折の好発部位でもある.
●関節包内骨折である頸部骨折と,関節包外骨折である転子部骨折とは,解剖学的・血行動態的・生体力学的に異なるため,骨癒合率・骨壊死率に差があり,手術方法の選択も異なる.
●頸部骨折は,関節包内骨折のため,次のような理由により骨癒合が遅れ治療が難しい:①骨折部に外骨膜が存在しないため骨膜性仮骨