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治療

酸・アルカリ中毒(強酸,フッ化水素,シュウ酸,アルカリ)
acid and alkali poisoning(strong acid,hydrogen fluoride,oxalic acid,alcali)
村尾佳則
(近畿大学准教授・救命救急センター)

 酸・アルカリは工業用品のみならず,トイレ洗浄剤,漂白剤,乾燥剤などで家庭用薬品として日常的に用いられているため,中毒も種々の形でみられる.酸・アルカリ中毒は,主に接触部位に腐食作用による障害が発生することによる.酸・アルカリ物質の接触部位と濃度,量などにより障害の程度が変わる.経口摂取では自殺目的で嚥下されて起こることが多く,食道・胃などの上部消化管が主に傷害され,眼球・皮膚に接触した場合は,化学熱傷としてその部位が傷害され,吸入した場合は気道,肺に損傷が生じる.この項では,狭義の化学損傷を含めて記載した「化学損傷」の項()参照のこと.


A.代表的な物質と病態

1

1強酸(塩酸,硫酸,硝酸)

➊中毒学的薬理作用:水素イオンが組織表面の蛋白質と結合し,組織蛋白が脱水して組織を凝固壊死させる.組織凝固性腐食作用である.

【酸による傷害の病態生理学的段階】

①急性炎症期(4~7日目まで):24~48時間で円柱上皮,粘膜下組織,筋層の崩壊を伴う血管血栓や細胞崩壊死がピークに達する.3~4日目までに壊死組織が脱落し,潰瘍が形成される.

②潜在的肉芽形成期(3日目ころ~2週目):線維増殖が始まり,肉芽組織が粘膜の脱落した部分を埋め,続いてコラーゲンが肉芽組織と入れ替わる.穿孔はこの時期に最も起きやすい.

③慢性瘢痕形成期(2~4週目以降):粘膜下組織や筋組織周辺に過剰な瘢痕組織が形成されることにより狭窄を生じる.その進行速度は様々である.

➋経口の場合

①循環器系症状:出血や血管透過性亢進により循環血液量が減少し,低血圧,ショック,頻脈が現れる.体液や電解質の喪失による低容量性ショック,およびそれに続発する臓器不全が出現する.

②呼吸器系症状:喉頭・喉頭蓋浮腫による呼吸困難が起こる.咽頭部狭窄よる閉塞症状が出現することがある.

③消化器系症状:消化管化学損傷の症状:口腔・食道・胃の腐食による激しい痛みと

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