診療支援
治療

腹腔穿刺,腹腔洗浄
peritoneal paracentesis and peritoneal lavage
大友康裕
(東京医科歯科大学大学院教授・救急災害医学)

Ⅰ.腹腔穿刺


A.適応,合併症,ピットフォール

1適応と禁忌

1適応

①出血性ショックで,緊急に腹腔内出血の有無を確認する必要のある場合.ただし,腹腔内出血の診断に関しては,その診断率・無侵襲性・簡便性・反復性から腹部超音波検査が,腹腔穿刺よりはるかに勝っているので,手元に超音波の器械がなく,緊急に出血部位の確認が必要な場合が適応として想定される.

②腹腔内液体貯留性病変の鑑別を表1に示す.腹腔内液体貯留性病変として,表1のような外傷・疾患が考えられるが,この腹腔内の貯留液体が,血液なのか,腹水なのか,消化管内容なのかなどの鑑別が治療方針決定に重要である場合に,腹腔穿刺の適応となる.

③腹水の除去は,肝硬変・癌性腹膜炎などにより貯留した腹水が,大量となったために,横隔膜呼吸を抑制したり,患者に苦痛を与える場合などに適応となる.

2禁忌

①高度な腸管拡張例

②妊婦

③以下の症例では,注意が必要

・開腹の既往のある症例.手術瘢痕部およびその周囲は腸管癒着の可能性があるため,十分離れた部位を穿刺する.

・骨盤骨折などによる後腹膜血腫症例.後腹膜が高度にせり上がり,後腹膜誤穿刺などがある.

2起こりうるトラブルとその対策

①穿刺部位からの出血や腸間膜,大網,実質臓器などを誤って穿刺した場合は,多くは血液は凝固するので問題となることは少ない.適切にperitoneal four-quadrant tapまたはエコーガイド下の穿刺で行えば,大血管を穿刺する危険はない.

②吸引内容から腸管の誤穿刺が疑われる場合には,あわてて穿刺針を抜去せず,十分に内容を吸引してから,穿刺針を抜去する.腸管内容の腹腔内への漏出を防ぎ,特に処置を必要とせずに経過を見ることが可能な場合が多い.

③治療目的の腹水除去を施行する場合,急速に大量の腹水を腹腔内から排出すると,血圧低下をきたすことがある.あまり急速な排液は避けることと,施行前に

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