診療支援
治療

救急医療の関連法規
Emergency medicine and the related laws
堤 晴彦
(埼玉医科大学教授・総合医療センター・高度救命救急センター)

A.救急医療に関する法律

1診療義務

 「診療に従事する医師は,診察治療の求があった場合には,正当な事由がなければ,これを拒んではならない」(医師法第19条,応招義務).どのような場合が正当な事由に当たるかは規定されていないが,おおよそ,①医師が不在の場合,②医師が病気のために診療が事実上不可能な場合,③他に緊急性のある患者を診察中で,事実上診療することが不可能な場合,などとされている.なお,この診療義務には罰則規定はなく,倫理規定であると解される.ただし,救命救急センターにおいては,「満床のために受入れ困難な病院に患者が救急搬送された事案で,少なくとも応急の治療は行い得た」として正当事由を否定した事例(千葉地判昭61),すなわち,民事上の責任を認めた判例がみられる.

 このように,法律の適用は具体的な事例ごとに判断されること,さらには,法律の解釈は判例によって作られるという法の構造があることである.

2守秘義務

 「医師,薬剤師,医薬品販売業者,助産婦,弁護士,弁護人,公証人,又はこれらの職にあった者が,正当な理由がないのに,その業務上取り扱ったことについて知り得た人の秘密を漏らしたときは,6月以下の懲役又は10万円以下の罰金に処する」(刑法第134条).このように,医師には秘密保持の義務があり,医師は正当な事由なく,業務上知りえた他人の秘密を漏洩してはならないとされる.

 また,守秘義務においては,個人情報保護法において,非常に細かい運用上の注意点が示されている.詳細については,厚生労働省の「医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取扱いのためのガイドライン」に記載されている.

3診断書の交付の義務

1死亡診断書と死体検案書 「診察若しくは検案をし,又は出産に立ち会った医師は,診断書若しくは検案書又は出生証明書若しくは死産証書の交付の求があつた場合には,正当の事由がなければ,これを

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