臨床判断を誤る心理機制
医師が診断を誤るときの心理過程は,一般にいうところの臨床判断(clinical judgment)を誤るときの心理過程の一部としてとらえることができる.われわれの下す臨床判断は,常に論理的で筋道立っているわけではない.むしろ,直感的で簡便な心理的早道(heuristics)を経て,短時間で下されることが多い.前者の論理的な判断と後者の心理的早道による判断とでは,ときにかなり異なる結論に至ることがある.
現在までに,少なくともBox-9図のような心理機序で,誤った臨床判断や誤診が引き起こされることが報告されている.
不運な結果と誤診
診療の結果,患者の健康状態が望ましくない結果(undesired outcome)になったからといって,すべて誤診というわけではない.undesired outcomeのなかには,その時点で最良の判断・決断をしたにもかかわらず,不可抗力によって望ましくない結果になる場合〔不運な結果(bad outcome)〕もあれば,あとで振り返ってみると,異なった判断・決断をするべきであったと考えられる場合〔過誤(mistake)〕がある.
不運な結果は,今まで抗菌薬を一度も使用したことのない肺炎患者に,ある抗菌薬を投与した結果,重篤なアレルギー反応を起こしたような場合をいう.患者にとっては気の毒ではあるが,このような場合の望ましくない結果は医学的には予測不可能であり,過誤とはいえない.医療には100%確実なことは1つもない.どの患者についても,不確実性を伴った確率をもって予測できるのみである.
一方,過誤とは,患者の症状から考えて,当然行っておくべき検査を怠ったために診断が遅れ,したがって治療が手遅れになり,重大な結果を招いた,または逆に,行う必要のなかった検査を行ったために身体的な傷害を被った,などの場合をいう.
誤診の背景と予防
結