今日の診療
内科診断学

咳,痰
渡辺 彰


咳,痰とは

■定義

●咳とは

 咳(cough)は,気道内の異物や喀痰などを排除し,気道内を清掃する正常な生体防御反射である.しかし,異物や分泌物があっても,咳反射が弱ければ停滞・貯留を起こして気道が閉塞される.逆に分泌物が少なくとも,咳反射が強すぎると気道が虚脱したり,強い咳が自らの気道粘膜を傷つけたりして,さらに咳を誘発することがある.

●痰とは

 咳によって気道系から喀出されるものの総称が痰(sputum)である.痰は,気道の杯細胞や気管支腺からの粘液性分泌物を主体に,脱落細胞成分,細菌などの異物,上気道分泌物や唾液などを含む.

 その量は通常100mL/日以下であり,気道の線毛輸送系により無意識下に喉頭へ運ばれ,咽頭を経て嚥下される.量がこれを超えると咳刺激を生じて喀出され,痰として自覚される.

 痰が粘稠となったり,咳反射が弱い場合には痰の気道内貯留,さらに気道の閉塞をきたし,末梢部位の感染が起こりやすくなる.

■咳・痰のメカニズム

●咳のメカニズム(図3-159)

 咳は,気道への物理的刺激(冷気など),化学的刺激(刺激性ガス,煙草の煙など)によっても生じるが,最も重要なのは痰を中心とする異物によって機械的刺激で生じる咳である.

 咳レセプター(cough receptor)は気道壁に存在し,気道系になんらかの刺激が加わると興奮する.興奮は迷走神経の知覚求心路を上行して延髄の咳中枢に到達し,種々の遠心路を介して呼吸筋,横隔膜,声帯へ反射的に刺激が伝えられる.この一連の動きは,生体では最初に大きな吸気(吸気相),声門閉鎖と呼吸筋収縮による気道内圧上昇(加圧相),そして声門を開放して爆発的な呼気が生じる排出相の一連の反応となって咳が発現する.

 迷走神経の感覚求心路は有髄神経(A-fibers)と無髄神経(C-fibers)の2つに分けられる.主たる咳レセプターと考えられている有髄神経は

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