現病歴:3週前に39℃台の発熱・咽頭痛・関節痛・右頸部の有痛性のしこりが出現した.近医を受診したところインフルエンザ検査は陰性で,症状は4〜5日で軽快した.5日前より下腿の浮腫と尿量減少に気づいた.体重が66kgから78kgに増加し,歩行困難を自覚したため,外来を受診し入院となった.
既往歴:帯状疱疹(24歳).
生活歴:喫煙は毎日20本を20歳から2年間,飲酒歴はビール500mLを毎日.
家族歴:母親が40歳時に腎臓病を指摘されたが詳細は不明.
身体所見:意識は清明.身長177.5cm,体重78.1kg,体温37.1℃,脈拍56回/分(整),血圧163/86mmHg,呼吸数18回/分.両眼瞼に浮腫(+),眼瞼結膜貧血(+),眼球結膜黄染(−),咽頭発赤(−),扁桃腫大(−).右後頸部に1cm大のリンパ節(無痛性)を認める.心音・呼吸音に異常なし.腹部は平坦・軟で肝・脾・腎触知せず.両下肢に圧痕性浮腫を認める(図4-22)図.
診断の進め方
特に見逃してはいけない疾患
・心不全
・ネフローゼ症候群
・肝硬変
・腎不全
・急性糸球体腎炎
頻度の高い疾患
・糖尿病性腎症
・急性腎障害
・抗好中球細胞質抗体(ANCA)関連血管炎
・膠原病関連腎症
・静脈血栓症
■この時点で何を考えるか?
医療面接と身体診察を総合して考える点
全身浮腫の患者の鑑別診断では,頻度が高く緊急性もある心不全が原因であるかどうかを判断する〔症候・病態編「浮腫」参照→〕.今回の患者では,〈除〉既往に心疾患はなく,胸痛の訴えもなく,胸部聴診で肺うっ血の所見も認めないので,否定的である.しかし,念のため胸部X線と心電図検査は必要である.
心不全と並んで,全身性浮腫を示す疾患で常に考慮する必要があるのは,ネフローゼ症候群と肝硬変である.両者ともに低蛋白血症により血管内の膠質浸透圧が低下し,間質の水が血管内に戻れず浮腫を生じる.〈除〉肝硬変は腫大した