現病歴:数日前から間欠的な心窩部痛を感じていたが自然に軽快した.本日,夕方から心窩部痛が出現した.虚血性心疾患の既往があることから,ニトログリセリン薬の舌下投与を行ったが症状は軽快しなかった.近医を受診し,急性冠症候群を疑われ,当院に救急搬送された.
既往歴:85歳時に労作性狭心症に対して冠動脈形成術が施行されている.75歳から脂質異常症.
内服薬:アスピリン薬100mg,クロピトグレル75mg,降圧薬など.
生活歴:喫煙なし,飲酒なし,他に特記すべきことなし.
身体所見:意識は清明.身長138cm,体重40kg,体温36.2℃(救急外来での待機中に38.8℃まで上昇),脈拍64回/分(整),血圧164/58mmHg,呼吸数17回/分,SpO2 95%(室内気).結膜に貧血黄疸なし.心肺に雑音聴収せず,心窩部に圧痛あり.Murphy徴候なし,反跳痛・筋性防御なし.両側肋骨脊柱角(CVA) 叩打痛なし.下腿浮腫なし.
診断の進め方
特に見逃してはいけない疾患
・冠動脈性心疾患
・虚血性腸管障害
・胃・十二指腸潰瘍穿孔
・急性膵炎(慢性膵炎の急性増悪も含む)
・胆道結石,急性胆道炎
頻度の高い疾患
・胃・十二指腸潰瘍
・機能性胃腸症
・胆道結石,急性胆道炎
・急性膵炎(慢性膵炎の急性増悪も含む)
・胃寄生虫症
・悪性腫瘍
・尿路結石
■この時点で何を考えるか?
医療面接と身体診察を総合して考える点
腹痛で受診した患者に対しては,重篤かつ迅速な処置が必要な疾患を否定しつつ診断を進めていく必要がある.重篤な疾患を見落とさないことが最も重要であり,正確な診断に至るまでに時間がかかっても構わない〔症候・病態編「腹痛」参照→〕.
本例は,虚血性心疾患の既往がある腹痛患者である.冠動脈性心疾患が腹痛の原因である可能性をまず念頭におくべきである.〈p〉心機能不全による血圧低下と心音呼吸音の異常,伝導系の異常による脈拍の異常が認めら