診療支援
診断

睡眠中の奇行
58歳 男性
西川 徹
(昭和大学・京都府立医科大学 客員教授/東京医科歯科大学 名誉教授)
甫母 瑞枝
(スリープクリニック三鷹 院長)

現病歴:睡眠中に,突然大きな叫び声を発する,隣で寝ている妻を叩く,歩き出して家具に当たり怪我をするなどのエピソードが繰り返されるようになった.家族が刺激すると速やかに覚醒して異常な行動はみられなくなり「夢を見ていた」と述べる.数か月以上改善しないため,精神異常を疑われ精神科を受診した.

既往歴:特記すべきことはない.

生活歴:大学卒業後,建設会社で事務職として勤務を続けている.30歳で現妻と結婚し,32歳時に長男,35歳時に長女をもうける.

家族歴:特記すべきことはない.

【問題点の描出】

元来心身ともに健康な男性.55歳頃から,睡眠中に大声・奇声,室内の徘徊,配偶者への暴力などの異常行動がしばしば出現している.日中の言動や仕事には問題なく周囲の信頼も厚い.ただし,妻は今回の暴力により離婚を考えていた.

診断の進め方

特に見逃してはいけない疾患

・Parkinson(パーキンソン)病

・Lewy(レビー)小体病

・多系統萎縮症

・脊髄小脳変性症

・脳血管障害

・てんかん

頻度の高い疾患

・REM関連行動障害

・心的外傷後ストレス障害

・パニック症

・睡眠時遊行症

・睡眠時驚愕症

・夜間せん妄

この時点で何を考えるか?

医療面接と身体診察を総合して考える点

 睡眠時の異常行動で受診した患者については,脳血管障害神経変性疾患などの重篤な疾患を基盤としている可能性があるため,エピソードの特徴や身体診察から,意識障害や神経症状の有無の判断が必須である.

 睡眠については,不眠や日中の過眠の訴え,上記エピソードについて生じやすい時間帯や「夢を見ていたか」,本人のほかの記憶,家族の働きかけにより覚醒するか,いびき,精神神経疾患の治療歴などを聴取し,関係する睡眠期および睡眠障害の種類を検討する.知覚・運動の異常の訴え(例:足がむずむずする・自然に動くあるいはビクンとする),幻覚・妄想などを示唆する言動(例:人が来ていたまたは気配を感

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