診療支援
診断

食思不振,不眠
47歳 女性
明智 龍男
(名古屋市立大学大学院精神・認知・行動医学分野 教授)

現病歴:右乳房の腫瘤を自覚し,乳癌と診断され,切除術を受けた.退院後の来外来時に,ホルモン薬などが効かない癌であることが告げられ,強いショックを受けた.以降,食思不振,不眠などが出現し,はっきりとした身体因がないにもかかわらず,これら症状が続くため受診.

既往歴:特記すべきことはない.

生活歴:出生,発育,発達に特記すべき問題はない.短大を卒業後,自動車機器製造の会社に入社し,結婚とともに退職.現在,19歳と16歳の娘がいる.

家族歴:精神疾患の家族歴はない.母親は患者が4歳のときに脳腫瘍で死亡.父親はその後再婚.6歳年下の異母弟がいる.

病前性格:繊細で心配症.

身体所見:身長155cm,体重48kg,脈拍84回/分(整),血圧124/60mmHg,SpO2 98%.甲状腺腫などは触知せず.

【問題点の描出】

ストレスとなる出来事,特に喪失体験に続発する器質因のはっきりしない食思不振,不眠を認める.

診断の進め方

特に見逃してはいけない疾患

・甲状腺機能低下症

・Cushing(クッシング)症候群

・全身性エリテマトーデス

原因(誘因)として頻度の高い疾患*

・癌

・閉塞性肺疾患

・脳血管障害

・心血管障害

・糖尿病

*直接的な病態としてうつ病の原因になるという意味ではなく,うつのきっかけとなるライフイベントとしての誘因という意味.

この時点で何を考えるか?

医療面接と身体診察を総合して考える点

 乳癌に罹患するという強いストレスに続発する食思不振と不眠が主訴であるため,うつ病をまずは念頭におくが,身体疾患によるうつ状態である可能性を除外する必要があるため,うつ病を考えながらも,同時に甲状腺機能低下症などのうつ状態をきたす可能性があり,血液検査などの簡便な検査でスクリーニングできる疾患については初診時の段階でチェックする.また各症状に応じて,適宜内科の専門各科などにも紹介する.

 うつ病は気分障害といわれるように,気

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