診療支援
診断

乳房のしこり
72歳 女性
新藏 信彦
(医仁会武田総合病院乳腺外科 部長)

現病歴:2021年5月頃から右乳房のしこりを自覚していたが,コロナウイルスワクチンの影響と思い込み放置していた.次第に大きくなってきたということで2022年3月に当院を受診となった.

既往歴:58歳時,胃癌に対し幽門側胃切除術を受けた.

生活歴:専業主婦.喫煙歴なし.飲酒歴は機会飲酒.

家族歴:乳癌,卵巣癌なし.

身体所見:身長156cm,体重60kg.右乳房10時方向に2.5×2.0cm大の境界不明瞭で固い腫瘤を触知する.腫瘤直上の皮膚がわずかに引きつれているが,潰瘍や発赤,圧痛は認めない.腫瘤と胸壁との間の可動性は良好である.また右腋窩に明らかな腫瘤は触知しない.左乳房や腋窩には特に異常を認めない.

【問題点の描出】

比較的高齢の女性が徐々に増大する右乳房のしこりを主訴に受診.右乳房に境界不明瞭な硬い腫瘤を触知する.

診断の進め方

特に見逃してはいけない疾患

・乳癌

・悪性リンパ腫

・葉状腫瘍

・肉腫

・転移性腫瘍(この場合胃癌の転移)

頻度の高い疾患

・線維腺腫

・囊胞

・乳腺症

・乳腺炎

・肉芽腫性乳腺炎

・膿瘍

この時点で何を考えるか?

医療面接と身体診察を総合して考える点

 乳房のしこりを主訴に受診した場合,まず〈p〉悪性疾患を見逃さないことが重要である.増大傾向にあるのか,月経周期との関係はどうかなどの患者の訴えは重要な情報である.また,腫瘤の性状や随伴する所見など身体診察を注意深く行うことで,ある程度,鑑別疾患を絞り込むことができる.

 今回の場合,〈除〉発赤,疼痛はなく,急性の炎症性疾患の可能性は低い〈p〉しこりは限局性の固い腫瘤としてはっきり触知されるため,単なる硬結ではなく,充実性の腫瘤が考えられる.また本人の訴えによれば,この10か月の間に〈除〉徐々に増大する腫瘤のようであり,急速に増大する葉状腫瘍や悪性リンパ腫の可能性は低くなる.さらに,〈除〉通常は皮膚の引きつれを伴わない線維腺腫や境界が明瞭

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