診療支援
診断

物にぶつかる(自覚なく,周囲から指摘)
68歳 男性
安部 哲史
(島根大学医学部内科学第三 講師)

現病歴:普段と変わりなく出勤したが,およそ5時間前に自家用車を運転中,車の左側をこするような接触事故を起こした.直後に,同様の事故を再度起こしたため,事故処理にあたった警察官からのすすめもあり,救急外来を受診した.同伴者から「左に傾き,物にぶつかりながら歩いている」と指摘されるが,本人は自覚していない.

既往歴:健康診断で高血圧の指摘を受けたことがあったが,未治療.

生活歴:飲酒は機会飲酒.喫煙は1日20本を48年間.

家族歴:2親等内の家族に脳血管障害の既往を有する者なし.

身体所見:意識はJCS Ⅰ-1.身長165cm,体重75.4kg,脈拍80回/分(整),呼吸数12回/分,血圧178/125mmHg,体温36.6℃,SpO2 97%(room air).言語障害なし.常に右側を向いており,聴診器のチューブを水平に提示し,中心を指さすよう指示すると,患者からみて右1/4の点を指す.簡単な計算は可能.上肢Barré(バレー)徴候では左上肢の回内あり.左半身に感覚障害あり.歩行では左に傾く.明らかな髄膜刺激症状はない.

【問題点の描出】

未治療の高血圧のある68歳男性.突然発症した行動の異常があり,周囲のすすめによって受診.ややぼんやりしており,病識に乏しく,右側ばかりを向いている.左上下肢に軽度の麻痺がみられる.

診断の進め方

特に見逃してはいけない疾患

・脳血管障害

・頭部外傷

・脳腫瘍

・脳内感染症

頻度の高い疾患

・脳血管障害

この時点で何を考えるか?

医療面接と身体診察を総合して考える点

‍ 〈p〉急性発症という経過や,喫煙歴や未治療の高血圧症など,〈p〉動脈硬化の危険因子の存在から,脳血管障害が最も考えられる.短時間のうちに接触事故を繰り返しており,1度目の事故の際に生じた頭部の外傷性変化によって,2度目の事故を生じた可能性も考えられるが,すでに1度目の接触事故の状況から左空間への認識が乏しく

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