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治療

D 排泄の促進──急性中毒治療の5大原則(3)
上條 吉人
(北里大学特任教授・中毒・心身総合救急医学)

 以前は,時間あたり2L以上の大量輸液をしつつ,必要に応じて利尿薬を投与するといった強制利尿が慣例的に行われていたが,現在では推奨されていない.また,以前は,さまざまな薬毒物による急性中毒で血液灌流法や血液透析法などの急性血液浄化法が施行されていたが,現在では,EBM(evidence-based medicine)の普及によって適応とされる薬毒物はほんのわずかである.


尿のアルカリ化:Alkaline Piss

 尿のpHを操作してアルカリ化して,弱酸性の薬毒物の腎排泄を促す方法である.尿のアルカリ化と大量輸液を組み合わせたアルカリ強制利尿は,現在では推奨されていない.


1)イオン・トラッピング(ion trapping)

 初期対応のポイント44に示すように,血液によって腎臓に運ばれてきた薬毒物は,糸球体でろ過される,または,尿細管腔内に分泌される.しかし,尿細管腔内から水が再吸収されると,尿細管腔内で薬毒物の濃度が上昇して血液との濃度勾配によって尿細管から再吸収される.ところが,尿のpHを操作してアルカリ化すると,弱酸性の薬毒物は,尿細管腔内では陰イオン型の割合が増加する.陰イオン型は尿細管細胞を通過しにくいため,尿細管から再吸収されずに尿細管腔内にとどまるため排泄が促進される.これをイオン・トラッピング(ion trapping)という.

 以前は,尿のアルカリ化に,時間あたり2L以上の大量輸液を組み合わせたアルカリ強制利尿が施行されていたが,尿のアルカリ化に比べて,肺水腫や電解質異常などの合併症は有意に増加するのに,クリアランスは有意差がないために,現在では推奨されていない.

 同様に,メタンフェタミンなどの弱塩基性の薬毒物は,酸性の尿中では陽イオン型の割合が増加して排泄が促進されるが,尿は本来酸性であるので,あえて酸性化する必要がない場合がほとんどである.


2)尿のアルカリ

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