診療支援
治療

34シンナー(トルエン,キシレン)
上條 吉人
(北里大学特任教授・中毒・心身総合救急医学)

最初の10分メモ

含有する製品

・トルエンおよびキシレンは,水に極めて難溶性であるが,アルコール類,油類をよく溶かすために有機溶媒として,シンナー,ラッカー,接着剤,ペンキ,塗料,ニス,インク,染料,塗料剥離剤,殺虫剤,クリーナーなどに用いられている.


診断のポイント

・トルエンまたはキシレンへの曝露歴または曝露が生じる状況がある患者に,経口摂取では,下痢,嘔吐などの消化器症状を,吸入では,多幸感,酩酊状態などの中枢神経症状を認める.

・トルエン中毒では,尿中に馬尿酸が検出される.

・キシレン中毒では,尿中にメチル馬尿酸が検出される.


治療のポイント

・化学性肺炎,ALI/ARDSには気管挿管および人工呼吸器管理を施行し,酸素化に応じて呼気終末期陽圧(PEEP)を調節.


Do&Don't

・エピネフリンなどの交感神経刺激薬は,不整脈を誘発,もしくは,悪化させるので必要時には慎重に投与.

・粘度(viscosity)が低く,誤嚥が生じやすいので,催吐および胃洗浄は禁忌.


体重50kgの実践投与量

プロプラノロールの投与:プロプラノロール(インデラル®注) 0.5~1.5mgを静注.


概説

 トルエンおよびキシレンは,芳香族石油炭化水素に分類され,化学工業では,多くの有機物の合成に用いられている.また,有機溶媒としても用いられている.1960年代には,若年者の間にシンナーやラッカーを吸入して多幸感を得るシンナー遊びが流行し,大きな社会問題となった(化学構造:図1).


薬物動態

吸入

・肺より速やかに吸収されるが,非極性,疎水性,脂溶性であるので血液・脳関門を容易に通過する.

・図2に示すように,吸収されたトルエンのおよそ80%は,肝臓で酸化されて,ベンジルアルコール(benzyl alcohol)さらには安息香酸(benzoic acid)に変換されるが,大部分は,グリシン抱合されて馬尿酸(hippur

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