診療支援
治療

39水銀元素,無機水銀化合物
上條 吉人
(北里大学特任教授・中毒・心身総合救急医学)

最初の10分メモ

含有する製品

・水銀元素および無機水銀化合物は,工業,農業などさまざまな産業で利用されている.また,OTC薬や家庭用品としても,水銀元素は,体温計,サーモスタット,バッテリーなどに,マーキュロクロムは局所消毒薬に用いられている.


診断のポイント

・水銀への曝露歴または曝露が生じる状況がある患者に,水銀元素(気体)であれば発作性乾性咳嗽,呼吸困難などの呼吸器症状,無機水銀化合物であれば金属味,出血性胃腸炎などの消化器症状,急性腎不全などを認める.

・経口摂取の場合は,腹部X線で消化管内のX線不透過像を認める.

・毛髪中の水銀濃度の測定は,以前の曝露歴を証明するのに有用である.


治療のポイント

■無機水銀化合物

・中心静脈圧などにより循環血液量を持続モニターしながら輸液を施行し,嘔吐,下痢,血管透過性の亢進などによる体液の喪失を補い,尿量を維持.

・急性腎不全があれば血液透析法を施行.

・ジメルカプロール(バル®注)を筋注.


Do&Don't

■水銀元素(液体)

・消化管よりほとんど吸収されないので,胃洗浄,活性炭の投与は施行しない.

■水銀元素(気体)

・ジメルカプロール(バル®注)は,他の組織から中枢神経系へ水銀を再分布させることがあるので,中枢神経毒性が問題となる水銀元素(気体)中毒では投与しない.

■無機水銀化合物

・吐血,血性下痢などによって消化管の腐食性傷害が疑われたら内視鏡を施行.

・腹部X線で消化管内にX線不透過像を認めれば腸洗浄を考慮.


体重50kgの実践投与量

ジメルカプロール(バル®注)の投与:最初の48時間;150~250mgを4時間ごとに筋注.次の48時間;125~150mgを6時間ごとに筋注.次の7日間;125~150mgを12時間ごとに筋注.


概説

 水銀元素は,室温では脂溶性でわずかに揮発性の灰色がかった銀色の液体であるが,熱すると容易に気化する.無機水銀化合物は,水

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