診療支援
治療

40無機ヒ素化合物
上條 吉人
(北里大学特任教授・中毒・心身総合救急医学)

最初の10分メモ

含有する製品

・日本では,三酸化ヒ素の大部分は液晶基板硝子の製造に用いられている.また,携帯電話などの通信機器に必要なⅢ族-Ⅴ族化合物半導体の製造に用いられている.医薬品としては,急性前骨髄球性白血病の患者の寛解を得るために用いられている.アルシンガスはシリコン半導体の製造に用いられている.


診断のポイント

・無機ヒ素化合物への曝露歴または曝露が生じる状況がある患者に,激しい消化器症状を認める.

・呼気のガーリック臭を認める.

・腹部X線で消化管内のX線不透過像を認める.

・血中および尿中ヒ素濃度の高値を認める.

・毛髪中のヒ素濃度の測定は,以前の曝露歴を証明するのに有用である.


治療のポイント

・急性期には,中心静脈圧などにより循環血液量を持続モニターしながら輸液を施行し,血管透過性の亢進などによる体液の喪失を補い,尿量を維持.

・症状があれば,ジメルカプロール(バル®注)を筋注.


Do&Don't

・腹部X線で消化管内にX線不透過像を認めれば腸洗浄を考慮.


体重50kgの実践投与量

ジメルカプロール(バル®注)の投与:重症度に応じて150~250mgを4~12時間ごとに筋注.


概説

 ヒ素元素は,金属と非金属の中間の化学特性をもつ半金属であるため,金属と合金を形成できるだけでなく,水素,炭素,酸素などと容易に共有結合する.元素状態のヒ素および有機ヒ素化合物は,ほとんど毒性がないが,無機ヒ素化合物は,毒性がある(代表的な無機ヒ素化合物:表1).


薬物動態

・吸収後に,赤血球のヘモグロビンのグロビン部分と結合し,24時間以内に,肝臓,腎臓,脾臓,肺,消化管粘膜などに再分布する.血管内に残留するヒ素は血漿蛋白と結合する.

・吸収から2~4週間以内に,ケラチンのスルフヒドリル基(SH-基,チオール基)と結合して毛髪,爪,皮膚などに取り込まれる.

・吸収から4週間以内に,リン酸と置換されて骨に取

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