診療支援
治療

3 横隔膜麻痺
paralysis of the diaphragm/phrenoplegia
仲村 秀俊
(埼玉医科大学教授・呼吸器内科)

▼定義

 横隔膜は左右の横隔神経に支配される.横隔神経は第3~5頸神経(C3~C5)から縦隔を下行し,横隔膜に至る.横隔膜麻痺は横隔膜自体または横隔神経の障害による横隔膜の機能不全である.片側性と両側性があり,おのおので原因,機能障害の程度と対処法が異なる.

▼病態

 片側性横隔膜麻痺の原因として,腫瘍による横隔神経の障害,特発性(右側に多い),頸部・胸部・心臓の手術などがある.両側性横隔膜麻痺の原因として多いのは脊髄損傷と神経筋疾患である.中枢神経や脊髄の異常,神経炎,糖尿病などの代謝性疾患が原因となる場合もある.

▼診断

臨床所見

 片側性では安静時は無症状のことが多いが労作時には呼吸困難を訴えることがある.左側の麻痺では消化器症状を呈することがある.両側性では安静時にも呼吸困難感があり,仰臥位で増悪する.仰臥位では吸気時に横隔膜が受動的に頭側に偏位し,腹部が陥凹する奇異性呼吸がみられる.

画像所見・検査所見

 片側性では,胸部X線写真で患側の横隔膜が挙上し,透視では呼吸性運動が低下している.鼻腔から急速吸気を行うsniff試験では,健側の横隔膜は下降するが,患側は挙上する.両側性では,胸部X線写真で両側横隔膜の挙上がみられる.横隔膜の動きは超音波やMRIでも評価できる.呼吸機能検査では,片側性では%肺活量は70%以上に保たれることが多いが,両側性では50%以下に低下することが多い.仰臥位では肺活量はさらに低下する.両側性では高炭酸ガス血症や低酸素血症を呈し,肺高血圧をきたす場合もある.

▼治療・予後

 原疾患に対する治療と換気不全に対する呼吸管理が必要になる場合がある.片側性は通常治療を必要としないが,患側の横隔膜縫縮術が奇異性運動の抑制などに有効な場合がある.両側性では非侵襲的陽圧呼吸が有効な場合が多い.末梢の横隔神経と横隔膜に異常がない場合には,横隔神経ペーシングの適応になる場合

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