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治療

5 横隔膜ヘルニア
hernia of the diaphragm/diaphragmatocele
仲村 秀俊
(埼玉医科大学教授・呼吸器内科)

▼定義

 腹腔内および後腹膜に存在する臓器が横隔膜の開裂部を通じて胸腔内へ脱出した状態である.外傷性と非外傷性に分けられ,非外傷性はさらに先天性と後天性に分けられる.

▼病態

 外傷性は左側に多い.後天性で最も頻度が高いのは食道裂孔ヘルニア(hiatal hernia)であり,高齢女性に多い.先天性で頻度が高いのはBochdalek(ボホダレク)ヘルニアであり(2,000~5,000出生に1例),両側背部の胸腹膜孔の閉鎖不全が原因であるが,左側に多い.新生児期に肺の低形成と肺高血圧を合併した症例は予後不良である.幼小児期に発見される場合もある.一方で成人の小さなBochdalekヘルニアは頻度が高く,高齢者ほど多い.胸骨後部ヘルニアは左右の胸肋三角部に発症するが右側のMorgagni(モルガーニ)孔ヘルニアが左側のLarrey(ラレー)孔ヘルニアよりずっと頻度が高い.Morgagni孔ヘルニアも幼小児期に加え,成人発症があり,成人のほうが頻度は高い.

▼診断

臨床所見

 横隔膜ヘルニアは肥満,妊娠などの腹圧上昇が誘因となることが多い.食道裂孔ヘルニアは無症状の場合が多いが,胃食道逆流症状を併発する場合がある.頻度は低いが胃捻転のリスクもある.Morgagni孔ヘルニアも無症状の場合が多いが,心窩部痛や胸骨後部の圧迫感を訴える場合があり,腸管の閉塞や絞扼のリスクもある.Bochdalekヘルニアは新生児の重症例では死亡率が高い.しばしばほかの先天異常も合併している.幼小児期の発症でも嵌頓ヘルニアのリスクがある.成人例では無症状のことが多い.外傷性ヘルニアも急性期に重症化する場合がある.一方で受傷後数年以上を経てから,腹圧上昇などに伴って発症する可能性があるので注意を要する.

画像所見

‍ 食道裂孔ヘルニアは胸部X線写真で心後部の腫瘤様陰影を示す.多くの場合,内部に空気や鏡面形成がみられる

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