学びのポイント
●Eisenmenger症候群の定義から,本症候群がどうして進行性・不可逆性疾患とされてきたのかを理解する.そして,現代の医療でもこの概念に変わりはないのかどうかに関して改めて考察することが重要である.
▼定義
1897年,オーストリアのVictor Eisenmenger医師が,大量喀血で突然死した心室中隔欠損の32歳男性の剖検例を報告したが,後にこの症例がEisenmenger症候群の第1例とされた.
Eisenmenger症候群の概念は,1958年に英国のPaul Wood医師が提唱した概念から大きく変化していない.すなわち,短絡性先天性心疾患において,大量の左右シャントにより誘起された閉塞性肺血管病変による肺血管抵抗値上昇が原因となり体血圧なみの肺高血圧状態を呈し,相当量の右左(逆)シャントを生じるようになった病態と定義され,この定義は今も大きく変わってはいない.Eisenmenger症候群の長年の医療実績から,シャント閉鎖による肺血管病変(肺高血圧)の可逆性が期待できない病態であり,不可逆性・進行性の難病で肺移植が唯一の治療法であるとのニュアンスまでもがこの概念のなかに含まれ定着してしまっているのである.
しかしながら,肺血管拡張薬が多く開発されている現代では,このニュアンスの部分は再考する余地がでてきている.
▼病態
Eisenmenger症候群の病態生理は,大きく2通りに分けて理解しておく必要がある.原疾患に伴う大きなシャント孔が,三尖弁(肺房室弁)の静脈側にあるのか心室側にあるのかで肺高血圧・Eisenmenger症候群の発症・進行スピードが異なり,心機能に与える影響も異なる(表3-41図).
前者は緩やかな肺高血圧への進行を呈し,肺高血圧は発症しないことも珍しくない.右心房・右心室(肺心房・肺心室)への容量負荷が特徴であり,肺高血圧の進行とともに