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1 食道裂孔ヘルニア
hiatus hernia
千葉 俊美
(岩手医科大学教授・関連医学分野)

▼定義

 食道裂孔ヘルニアは腹腔内臓器が横隔膜の食道裂孔を通じて胸腔内に脱出した状態であり,多くは胃の一部が脱出する.

▼病態

 多くは後天的であり,肥満などによる慢性的な腹圧上昇や,加齢による食道裂孔の開大と横隔食道靱帯の脆弱化が関与している.滑脱型は腹腔内圧の上昇が,傍食道型は横隔食道靱帯の局所的な欠損が要因とされている.

▼疫学

 わが国の食道裂孔ヘルニアは内視鏡検査施行例の30~40%といわれ,その大部分は滑脱型である.高齢者では比較的女性に多い.

▼分類

 滑脱型(sliding type),傍食道型(paraesophageal type),混合型(mixed type)に分類される.

 滑脱型では食道胃接合部が食道裂孔より胸腔側に移動し,胃の近位側が胸腔内に脱出する.傍食道型では食道胃接合部は食道裂孔に位置しているが胃穹窿部,大弯側が胸腔内に脱出する.混合型では滑脱型と傍食道型の両方の特徴を有する.

▼診断

症状

 食道裂孔ヘルニア自体は無症状であるが,胃食道逆流症による食後の胸やけなどを認め,大きなヘルニアでは嚥下障害や胸腔内臓器の圧迫症状がみられることがある.

検査

 上部消化管内視鏡検査(図4-3)や食道造影検査により食道胃接合部の位置と横隔膜食道裂孔の位置のずれや胸腔内に胃穹窿部の脱出を確認することで診断される.食道内圧測定検査で下部食道括約筋(lower esophageal sphincter:LES)圧の低下と,食道pH測定で酸逆流を認める.

▼治療

 無症状の場合は治療の必要はない.胃食道逆流症を伴う場合は酸分泌抑制薬を投与する.薬物治療に抵抗性である場合や胸部臓器への圧迫症状が強い場合,胃の捻転などの際には,噴門形成術〔Nissen(ニッセン)法,Toupet(トペー)法など〕が行われる.

▼予後

 滑脱型で胃食道逆流症を併発すると,前屈による悪化で食道潰瘍やBarre

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