診療支援
治療

1 食道憩室
esophageal diverticulum
磯本 一
(鳥取大学教授・機能病態内科学)

▼定義

 食道憩室とは,食道壁の一部が囊状,円錐状,または台形状に外側に突出した,食道の限局的拡張状態であり,食道造影上で0.1~1.5%の頻度でみられる.

▼病態・分類

 内圧の上昇に押し出される圧出性憩室と,周辺臓器の炎症が波及し,癒着により食道壁が牽引されて発生する牽引性憩室,および圧出牽引性憩室の3タイプに分類される.

 解剖学的に下咽頭から食道入口部後壁の解剖学的脆弱部に,先天性に発生する圧出性憩室が,咽頭食道憩室〔Zenker(ツェンカー)憩室〕である.気管分岐部近傍には,食道周囲の結核性リンパ節炎が食道壁に波及し,治癒過程の瘢痕収縮により憩室が発生する.この気管分岐部憩室は,Rokitansky(ロキタンスキー)憩室ともよばれ,食道壁全層の牽引性憩室である.横隔膜上憩室は後天性の圧出牽引性憩室であり,しばしば運動障害(アカラシア,びまん性食道けいれん)を伴う.

▼症候

 憩室が小さい場合には無症状であることが多い.大きくなると,憩室が食道を圧排し嚥下困難,通過障害をきたすことがある.咽頭食道憩室は初期には咽頭部の不快感程度であるが,増大するにつれて嚥下困難,吐逆などを起こしやすくなる.誤嚥性肺炎をきたす可能性もある.まれに頸部腫瘤として触知される.気管分岐部憩室や横隔膜上憩室が症状を呈することはまれであるが,その基礎疾患による症候がみられることがある.食物の停滞により憩室炎や潰瘍が併発すると,出血や穿孔,さらに周囲に炎症が波及し,気管・気管支瘻や大動脈瘻が形成されることもある.

▼診断

 X線造影検査が有用であり,内視鏡検査で偶然に発見されることもある.咽頭食道憩室では,食道入口部の側後方に憩室が囊状に圧出しているX線像が典型的である(図4-22).内視鏡検査では潰瘍の有無やまれな癌の併存にも留意して観察するが,憩室内腔が食物残渣で充満している場合もある.また,咽頭食道憩室

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