疾患を疑うポイント
●有腹水肝硬変症例の経過中に,血清Cr 1.5mg/dL以上で,2日間以上利尿薬を中止してアルブミン投与後も血清Crの改善がない場合に疑う.
学びのポイント
●病態は腎皮質血管のれん縮による腎血行動態の異常.
●SBPに続発し急速に進行するⅠ型と難治性腹水を伴うことが多い緩徐な経過のⅡ型がある.
●薬物治療としてはアルブミン併用下での血管収縮薬投与である.肝移植は根治療法.
●予後は不良で,特にⅠ型HRSでは死亡率が2週間で80%になる.一方Ⅱ型でも平均予後が4~6か月とされる.
▼定義
非代償性肝硬変に併発する腎不全であるが,腎組織において器質的な障害がなく機能的な腎障害である.
▼病態
肝硬変では,肝内血管抵抗の増加により門脈圧が亢進する.また一酸化窒素(NO)や血管内皮増殖因子といった血管拡張因子の増加もあり末梢血管は拡張する.一方で蛋白合成能の低下から低アルブミン血症による血管内膠質浸透圧低下もあり,有効循環血液量が低下する.これにより神経内分泌系の活性化が起こり,レニン-アンジオテンシン-アルドステロン系やアルギニン-バソプレシン系が活性化し,体液の保持および血圧上昇がはかられる.代償期では,この血管収縮作用と腎血流保持作用のバランスがとれ,糸球体ろ過が保持される.しかし,肝硬変の進行による合併症(食道胃静脈瘤破裂,腹水貯留,特発性細菌性腹膜炎)やそれらに対する治療(利尿薬過多,腹水穿刺)は,静脈還流低下をきたし,有効循環血液量がさらに低下する.この病態では,より強力な血管収縮作用が発現しこの影響が腎に現れると腎血管が収縮し腎血流が著明に低下するとともに糸球体ろ過圧が低下し本症の発症に至る.
▼疫学
高窒素血症のない有腹水肝硬変症例229例の前向き観察では,1年間で18%,5年間で39%の症例がHRSになったとされている.
▼分類
臨床経過から2群に分類される(表