▼定義
脂質異常症,特に高トリグリセリド(TG)血症が原因となる急性膵炎をいう.両者の因果関係を証明することは容易ではなく,報告例のほとんどでは,①全経過を通して飲酒,胆石,薬剤などの関与が否定的なこと,②高TG血症が先行していること,③急性膵炎の発症時ならびに膵炎軽快後も高TG血症が持続したことから,膵炎の発症要因としての高TG血症の関与を想定している.なお,急性膵炎に伴い一過性に高脂血症が生じることがあり,注意を要する.
▼病態
脂質異常症は通常,WHOの表現型分類に従いⅠ型,Ⅱa型,Ⅱb型,Ⅲ型,Ⅳ型,Ⅴ型の6つに分類されるが,このうちTGが著増するⅠ型,Ⅳ型,Ⅴ型高脂血症と急性膵炎の関連が知られている.
高TG血症は原因により原発性と二次性に大別される.原発性高TG血症は明らかな基礎疾患はなく,遺伝子異常などに基づく血清脂質やリポ蛋白代謝系の異常により発症する.カイロミクロン中のTGを分解するリポ蛋白リパーゼ欠損症ではカイロミクロンとTGが著増しⅠ型高脂血症を生じる.同反応にかかわるアポ蛋白C-Ⅱ欠損症ではカイロミクロンとVLDL,TGが増加しⅤ型高脂血症を生じる.これら遺伝子異常が背景にある場合,幼児期や小児期に膵炎を発症することが多い.二次性高脂血症の原因としては,飲酒や妊娠,糖尿病,過食などが重要である.
高TG血症による急性膵炎1,340例のレビューでは,入院時の血中TG値の中央値は2,622mg/dL(最小値1,160mg/dL,最大値9,769mg/dL)であった.このレベルの高TG血症を生じるには,前述の遺伝子異常が背景に存在することも多いが,日常臨床においては,軽度の高TG血症という素因を基盤として,アルコール多飲,過食,妊娠,糖尿病などが単独あるいは相互に絡み合って発症の誘因となることも少なくない.
高TG血症による膵炎発症機序は完全には解明されて
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