診療支援
治療

5 妊娠糖尿病
gestational diabetes mellitus
柳澤 慶香
(東京女子医科大学・糖尿病センター准教授)

学びのポイント

●妊娠中は軽度の耐糖能異常であっても,管理が不適切であると母児にさまざまな合併症が発生する.

●妊娠糖尿病の既往は将来の2型糖尿病発症のリスク因子となる.

▼定義

 妊娠中に取り扱う糖代謝異常には,①妊娠糖尿病(gestational diabetes mellitus),②妊娠中の明らかな糖尿病(overt diabetes in pregnancy),③糖尿病合併妊娠(pregestational diabetes mellitus)の3つがある.「妊娠糖尿病」は「妊娠中にはじめて発見または発症した糖尿病に至っていない糖代謝異常である」と定義され,妊娠中の明らかな糖尿病,糖尿病合併妊娠は含めない.

▼病態

 妊娠,分娩,産褥の経過に伴い,母体の糖代謝は変化する.妊娠中期以降は胎児の成長のために,母体が摂取したエネルギー,すなわちブドウ糖を胎児に優先的に供給する必要がある.このため,胎盤からはヒト胎盤性ラクトゲンやプロゲステロンなどのホルモンやサイトカインが分泌され,インスリン抵抗性が増大する.インスリン抵抗性による母体血糖値の上昇に抗して,母体のインスリン分泌は増加するが,それが不十分であると母体は高血糖へと傾いていき,妊娠糖尿病を発症する.

 妊娠中の高血糖は,巨大児,それに伴う肩甲難産や分娩損傷,妊娠高血圧症候群,羊水過多症,早産などを引き起こすため,厳格な血糖管理が必要である.

▼疫学

 施設間格差があり正確な頻度は不明であるが,現在わが国では全妊婦の10%程度になんらかの糖代謝異常を合併しているといわれている.生活習慣の変化による肥満の増加,女性の社会進出や生殖補助医療の普及に伴う高齢出産の増加に伴い,妊娠糖尿病患者の増加が予想される.

▼診断

診断基準

 日本糖尿病・妊娠学会と日本糖尿病学会との合同委員会 妊娠中の糖代謝異常と診断基準により診断する〔日本糖尿病・妊娠

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