診療支援
治療

1 インスリノーマ
insulinoma
後藤 広昌
(順天堂大学大学院准教授・代謝内分泌内科学)
綿田 裕孝
(順天堂大学大学院教授・代謝内分泌内科学)

▼定義

 膵内分泌腫瘍(pancreatic neuroendocrine tumor)の一種で膵β細胞が腫瘍化したもの.インスリンを自律性に過剰分泌するため,低血糖症を呈する.

▼疫学

 頻度は1年あたり人口あたり0.4%で大部分が孤発性であるが,10%弱は多発性内分泌腫瘍症(multiple endocrine neoplasia:MEN)1型の部分症として認め,MEN1型患者全体の6~15%程度が生涯で本症に罹患する.孤発例での診断時年齢は平均50代で約60%が女性であるが,MEN1型に伴うものでは20代から発症する.多くは単発性の良性腫瘍であるが,10%弱は悪性で肝転移や局所リンパ節転移が多い.

▼診断

 自律性のインスリン過剰分泌によって,絶食時間が長くなる空腹時低血糖が典型的な検査所見であるが,一部には空腹時低血糖を生じないものの食事摂取によるインスリン過剰分泌によって反応性低血糖のみを呈する報告も散見される.臨床症状出現から確定診断までの平均期間は1~2年とされているが10年以上確定診断されない例も少なからず存在する.慢性的に低血糖を繰り返すことで無自覚性低血糖による昏睡やけいれんを引き起こし,認知症あるいはてんかんと誤診される場合もあるため注意を要する.患者の一部は低血糖を回避するために過食傾向となり肥満症を合併することがある.

 自律性のインスリン過剰分泌を推定するため従来から空腹時血糖値およびインスリン値に基づいた指標が用いられているが,軽症例では偽陰性となることが多く実用的ではない.そこでインスリノーマを疑われる場合は入院監視下での72時間絶食試験での低血糖誘発を考慮する.インスリノーマの場合は48時間以内に95%以上,72時間以内に99%以上が低血糖を生じるとされる.➊低血糖症状の出現,➋同時採血での低血糖(55mg/dL以下)および血清インスリン抑制不良(3μ

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