診療支援
治療

(2)無βリポ蛋白血症
abetalipoproteinemia
井出 佳奈
(千葉大学大学院・内分泌代謝・血液・老年内科学)
横手 幸太郎
(千葉大学大学院教授・内分泌代謝・血液・老年内科学)

▼定義・病態・疫学

 ミクロソームトリグリセリド転送蛋白(microsomal triglyceride transfer protein:MTP)遺伝子の変異により低脂血症をきたす常染色体劣性遺伝疾患である.MTPは肝・小腸で合成されたアポBにTGが付加されVLDL,カイロミクロンが形成される過程において不可欠である.VLDLは末梢組織に必要なコレステロールを輸送し,小腸でのカイロミクロン形成により脂肪が吸収される.MTPの機能欠失変異により,小腸上皮の原始カイロミクロンと肝細胞の原始VLDLに脂質が転送されないため,カイロミクロンとVLDLが生成されず低コレステロール,低TG血症をきたす.きわめてまれな疾患であり,日本人では10家系程度報告されている.

▼診断

 血清アポB濃度が欠損レベル(5mg/dL未満)であり,下記臨床症状・検査値異常を認め,ほかの低脂血症が除外されれば本症が強く疑われる.家族性低βリポ蛋白血症との鑑別には遺伝形式が参考になる.本症では患児の両親の血清脂質やアポB値は正常である.

臨床症状

 腸管からの脂肪吸収障害により小児期では脂肪便,慢性下痢や成長障害を呈する.脂溶性ビタミンのうち特にビタミンE欠乏が著しく,これに起因し脊髄小脳変性症などの神経障害,網膜色素変性症による視力障害,筋障害,貧血,凝固障害,脂肪肝などを呈する.

検査所見

 血清TC値,TG値ともに著明に低下し,LDL-CやアポBは欠損レベルである.

▼治療・予後

 下痢を回避するために脂肪摂取制限を行う.乳児にはカイロミクロンを経ずに吸収される中鎖脂肪酸トリグリセリド(medium-chain triglyceride:MCT)のミルクを用い,必須脂肪酸の不足に注意する.ビタミンEとビタミンAの大量補充療法を早期に開始すると,ビタミン欠乏に起因する症状の発症・進行を遅延させる可能性がある.成人

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