診療支援
治療

(12)ビオチン欠乏症
呉 繁夫
(東北大学大学院教授・小児病態学)

 ビオチン(biotin)は,ビタミンB群に分類される水溶性ビタミンの一種で,ビタミンB7,ないしビタミンHともよばれ,腸内細菌により供給される.成人が摂取する推奨量は50μg/日.ビオチン欠乏は,食品からの摂取不足などの環境要因によるものと,先天性ビオチン代謝異常症によるものとがある.ビオチン欠乏の症状は,白髪,脱毛,湿疹あるいは炎症など皮膚症状,皮膚や粘膜の灰色退色や落屑,結膜炎,筋肉痛,疲労感,食欲不振,味覚異常,血糖値上昇,不眠,神経障害,などである.

後天性ビオチン欠乏症

 通常の食事を摂取している場合は,欠乏症は生じない.喫煙,アルコール,頻回の下痢,抗菌薬による腸内細菌叢の変化,などにより欠乏症が生じる場合がある.また,完全静脈栄養施行時や腎臓透析施行時にもビオチン欠乏に留意する必要がある.卵白の大量摂取による欠乏症が報告されている.卵白中にはビオチンと強く結合するアビジンという蛋白質が多く含まれ,アビジンが結合したビオチンは生理活性が乏しいために欠乏症が生じる.小児では,アレルギーなどの治療用ミルクにビオチンが添加されていない製品があり,欠乏症が報告されている.

先天性ビオチン代謝異常症

 ビオチン代謝酵素の遺伝的欠損症は2種類知られている.1つは,ビオチニダーゼ欠損症で,もう1つがホロカルボキシラーゼ合成酵素欠損症であり,いずれも常染色体劣性遺伝をとる.ビオチニダーゼは,ビオチンのリサイクルに働くので,ビオチニダーゼ欠損により再利用が障害されるためビオチン欠乏が生じる.ホロカルボキシラーゼ合成酵素は,ビオチンを補酵素とする4種類のカルボキシラーゼ(ピルビン酸カルボキシラーゼ,アセチルCoAカルボキシラーゼ,プロピオニルCoAカルボキシラーゼ,メチルクロトニルCoAカルボキシラーゼ)にビオチンを結合させる(ホロ化させる)酵素である.この酵素欠損によりビオチンが存

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