疾患を疑うポイント
●原因不明の肝機能障害,全身疲労感,骨関節症状,心肥大,糖尿病,肝硬変.
●血清フェリチン値,血清トランスフェリン鉄飽和度の上昇.
●長期の輸血歴,鉄剤の過剰投与,慢性肝疾患などの既往.
▼定義
鉄代謝の異常により,実質細胞に鉄が過剰沈着し,組織障害,臓器不全,発癌をもたらす.鉄代謝調節遺伝子の異常で生じる遺伝性ヘモクロマトーシスと長期輸血,慢性炎症などが原因の二次性ヘモクロマトーシス(二次性鉄過剰症)がある〔第5章の→も参照〕.
▼病態
鉄は体内に2~3g存在し,赤血球のヘモグロビン合成,細胞内の酸化還元反応の触媒,細胞の増殖・アポトーシスなどに必須である.過剰に存在すると活性酸素種を産生,細胞障害やDNA損傷をきたす.このような鉄毒性を回避するために,生体鉄代謝は,腸管吸収から貯蔵,運搬,利用,再利用まで,ヘプシジン(hepcidin:Hpc)を介した巧妙な調節が行われ,過剰な鉄が蓄積されない(図6-37図).しかし,さまざまな病因で鉄が過剰に蓄積して臓器障害を引き起こすとヘモクロマトーシス(鉄過剰症)の状態になり,全身臓器の線維化,機能不全,発癌まで生じる.特に肝臓では,肝機能障害,肝硬変,肝不全,肝癌をきたす.遺伝性ヘモクロマトーシスは,HFE,Hpc(HAMP),ヘモジュベリン(HJV),トランスフェリン受容体2(TFR2),フェロポルチン(FPN)遺伝子の異常に基づく.HFE,HAMP,HJV,TFR2遺伝子異常では,共通してHpc低下とそれに伴う腸管での鉄吸収の亢進がみられる.一方,輸血,骨髄不全,ウイルス感染,アルコール摂取,肥満,糖尿病などで,二次性ヘモクロマトーシスが引き起こされる.
▼疫学
わが国では,遺伝性のものはわずかで二次性ヘモクロマトーシスが大部分で,その多くは長期輸血による.欧米では遺伝性ヘモクロマトーシスの頻度が高く,米国白人の10
関連リンク
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