疾患を疑うポイント
●乳児から高齢者までいずれでも発症しうる.
●亜鉛欠乏による症状を示し,血清亜鉛値が低値をとる.
●亜鉛投与により,症状が改善される.
▼定義
亜鉛欠乏による味覚障害,皮膚炎,口内炎,脱毛症,難治性の褥瘡,食欲低下,発育障害,性腺機能不全,易感染性,貧血,不妊症などの症状の1つ以上を示し,血清亜鉛値が60μg/dL未満で,かつ亜鉛投与により,症状が改善される.
▼病態
亜鉛は,体内に2g存在し,200種類以上の亜鉛含有酵素の活性中心として働くほか,細胞の分裂,増殖,遺伝子制御に必須の金属である.細胞内情報伝達や免疫応答も担う.先天性では,ZIP4遺伝子異常による腸性肢端皮膚炎があり,乳児で発症し,皮膚炎,脱毛,下痢が三徴である.
▼疫学
亜鉛欠乏は通常起こりえないとされていたが,乳児から高齢者まで広く認められる.遺伝性の先天性腸性肢端皮膚炎は,きわめてまれで,わが国では4家系認められているにすぎない.
▼分類
亜鉛欠乏の要因には,摂取不足,吸収不全,需要増大,排泄増加などが挙げられる(表6-47図).
▼診断
亜鉛欠乏症は,亜鉛欠乏の臨床症状と血清亜鉛値によって診断される.味覚障害,皮膚炎,口内炎,脱毛症,難治性の褥瘡,食欲低下,発育障害(小児で体重増加不良,低身長),性腺機能不全,不妊症,易感染性,貧血などのうち1つ以上の症状を示し,血清亜鉛値が60μg/dL未満で亜鉛欠乏症と診断される.血清亜鉛値が60μg/dL未満を亜鉛欠乏症,60~80μg/dL未満を潜在性亜鉛欠乏とする.亜鉛酵素である血清アルカリホスファターゼ値は低値を示す.亜鉛を補充することにより症状が改善することを確認する.
▼治療
亜鉛として成人50~150mg/日,小児1~3mg/kg/日または体重20kg未満で25mg/日,体重20kg以上で50mg/日を分2で食後に経口投与する.酢酸亜鉛が亜鉛欠乏