診療支援
治療

1 ムコ多糖症
mucopolysaccharidosis(MPS)
大橋 十也
(東京慈恵会医科大学・副学長)

疾患を疑うポイント

●特有の顔貌

●原因不明の中枢神経障害

●乳児期に本症を疑うのは困難

学びのポイント

●希少疾患であるがゆえに早期に疑うことは困難.

●しかしながら頻度は数万人に1人と,それほどまれではない.

●現在,欧米では新生児スクリーニングの1つとして加えられる方向.

●本症には治療法が存在するため,早期に診断することは重要.

▼定義

 ライソゾーム(リソソーム)は細胞内のさまざまな物質を分解し,再利用を行うための細胞内小器官であり,多くの水解酵素が局在している.そのうち,グリコサミノグリカン(glycosaminoglycan:GAG)を分解する酵素が遺伝的に欠損する疾患をムコ多糖症とよぶ.酵素欠損の結果,分解できなかったGAGの断片が細胞内に蓄積し,中枢神経,骨,心臓を含む全身にわたる症状を呈する.GAGとは2つの糖の繰り返し構造からなり,1つはアミノ糖,もう1つはウロン酸もしくはガラクトースであり多くの場合蛋白質と結合してプロテオグリカンとして存在する.GAGは以前,ムコ多糖とよばれていたため,ムコ多糖症(MPS)とよばれる.欠損する酵素や蓄積するGAGの種類により7つの型に分類される(表6-50)

▼病態

 GAGは結合組織を中心にすべての細胞に存在するため症状は非常に多岐にわたる.本症は各型で症状の違いはあるものの共通する症状も多い.症状の例としては精神運動発達遅滞,角膜混濁,網膜変性,滲出性中耳炎,難聴,閉塞性呼吸障害,心弁膜症,関節拘縮,骨変形(鷲手,亀背など),低身長,特有の顔貌などがある.GAGの断片の蓄積が本症の一次的病態であるが,それがなぜ症状に結びつくのかは不明な点も多い.

▼疫学

 欧米ではⅠ型が多いが,日本,韓国などの東アジアではⅡ型が過半数を占め,次いでⅢ型,Ⅰ型の順になっている.発症頻度は欧米では24,000人に1人,わが国では5万~6万人に1人と推定され

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