疾患を疑うポイント
●一般診療で遭遇するチャンスはきわめて高い.
●甲状腺機能低下症の最も多い原因疾患である.
●さまざまな甲状腺機能を示す.
●弾力のある硬いびまん性甲状腺腫が特徴.
学びのポイント
●びまん性甲状腺腫と甲状腺自己抗体で診断.
●甲状腺機能は時間経過で多彩に変化するため,定期的な経過観察が必要である.
●ヨウ素の過剰摂取により甲状腺機能低下症になりやすい.
●永続性の甲状腺機能低下症に対する甲状腺ホルモン製剤の補充は,少量から開始してTSHを指標に漸増していく.
▼定義
1912年に橋本策博士によって“struma lymphomatosa”として発表された.病理学的に,①リンパ濾胞の形成,②甲状腺上皮細胞の変性,③結合組織の新生,④円形細胞のびまん性浸潤,と定義された.
▼病態
血液検査で甲状腺自己抗体が陽性になり,Basedow(バセドウ)病とともに自己免疫性甲状腺疾患として分類される.自己抗原がサイログロブリン(thyroglobulin:Tg)と甲状腺ペルオキシダーゼ(thyroid peroxidase:TPO)であることが明らかにされたあとは,病理所見の代わりにそれらに対する抗体の有無が診断基準に利用されている(表7-20図).
▼疫学
頻度は,地域・人種,性別・年齢,調査対象によって異なる.米国では,National Health and Nutrition Examination Survey(17,353名)において,抗TPO抗体の陽性率は13.0%(女性17.0%,男性8.7%),抗Tg抗体の陽性率は11.5%(女性15.2%,男性7.6%)であり,両者とも年齢とともに増加した(図7-15図a).既知の甲状腺疾患除外者におけるいずれかの抗体陽性率は18%であった.一方,わが国の人間ドックを対象とした香川県の調査(1,818名)では,男女とも抗Tg抗体の陽性率が