疾患を疑うポイント
●動脈硬化リスクをもつ中高年者に突然発症した,Horner症候群,交代性温痛覚障害,球麻痺.錐体路症候は認めない.または,動脈硬化リスクのない若年者に外傷や頸部の過伸展を伴うような運動を契機に生じた後頸部痛と上記症候.
学びのポイント
●主に脳梗塞によって生じ,病巣が小さいにもかかわらず多彩な神経症候を呈しうる.個々の症例における症候の理解,また軽微な症候や非典型的な症候で来院した患者を的確に診断するには延髄外側の機能解剖の理解が必要.
●嚥下障害などの症状はその後の患者のQOLを著しく低下させる可能性がある.椎骨動脈や後下小脳動脈の動脈解離を契機として若年者に発症することもあるため,本症候群をきちんと知っておく必要がある.
▼定義
延髄外側障害により構音障害,嗄声,嚥下障害などの球症状,病巣側のHorner(ホルネル)症候群,運動失調,顔面温痛覚障害,および対側の体幹・上下肢の温痛覚障害を主要症候とする症候群.錐体路症候を伴わないことも特徴である.
▼病態
ほとんどが椎骨動脈か後下小脳動脈の閉塞によって生じる(そのため,本項は脳梗塞によって生じるWallenberg症候群に関して記載する).後下小脳動脈が灌流する領域(≒延髄外側領域)に虚血が生じ,図10-16図のような症状が生じる.Wallenberg症候群を生じる脳梗塞の病型としては,後下小脳動脈や椎骨動脈のアテローム血栓性脳梗塞,塞栓性脳梗塞が多いが,椎骨動脈の解離により生じることも少なくない.
▼疫学
正確で大規模な疫学調査は存在しないが,筆者らの施設(一次~三次救急を有する大学病院)に入院した発症7日以内の脳梗塞・一過性脳虚血発作患者1,178例のうち,延髄外側梗塞によりWallenberg症候群(不全型を含む)を呈したのは28例(2.4%)であった.
▼診断
問診・診察で延髄外側の障害を疑い,頭部MRIの