疾患を疑うポイント
●頭頸部の持続する激しい痛み.
●原因不明の若年性脳梗塞.
●頭部MRAにて動脈の局所的な先細り,拡張,狭窄などの所見を認めるとき.
学びのポイント
●欧米では頭蓋外内頸動脈に多いが,日本では頭蓋内椎骨動脈に多い.
●動脈解離にはSAHをきたす出血発症タイプ,脳梗塞やTIAをきたす虚血発症タイプ,頭痛のみで巣症状を示さない無症候タイプがある.それぞれ治療法が異なるため鑑別診断が非常に重要.
▼定義
脳を灌流する動脈壁の血管内皮が損傷し動脈壁内に血液が流入するため,血管壁の内膜と中膜あるいは中膜と外膜の間が剝がれた状態のことを脳動脈解離という(図10-24図).
▼病態
頸部の内頸動脈は体表に近くまた椎骨動脈は頸椎の横突孔を貫通しているため,物理的刺激(ゴルフ,野球,柔道などでの頸部回旋や伸展)によりそれらの動脈内腔に傷がつきやすい.しかし記憶に残らない程度の軽微な動作が原因になることもある.一方,頭蓋内の動脈解離は内頸動脈系,椎骨動脈系とも原因不明の場合が多い.背景病態として,線維筋形成不全(fibromuscular dysplasia:FMD),Marfan(マルファン)症候群,Ehlers-Danlos(エーラス-ダンロス)症候群Ⅳ型などの結合組織疾患が挙げられる.病理学的検討から内弾性板の断裂が認められるという報告もあり,臨床的画像診断のみでは原因は特定できないといえる.
▼疫学
欧米では頭蓋外内頸動脈の報告が多く,日本では頭蓋内椎骨動脈の報告が多い.脳卒中データバンク2015によると,動脈解離は全脳卒中99,000例中0.8%にみられ,一過性脳虚血発作(transient ischemic attack:TIA)または虚血発症が0.5%であった.発症年齢は60歳未満が63%を占め,40歳未満が16%であった.ただし頭痛のみの症例はこのなかに含まれないため,動脈解