▼病態
両側の皮質延髄路(皮質橋路)の障害で起きるが,まれに一側の障害や弁蓋部の病変でも生じる.構音障害のほうが,嚥下障害よりも初期から目立つことが多い.食物の咀嚼後に食塊を形成し,口腔から咽頭に移送する口腔期の障害が主体で,嚥下反射の惹起が遅れてタイミングがずれることで誤嚥をきたす.延髄に病変がある球麻痺と違って嚥下反射は保たれている.軽度の偽性球麻痺では,水分で時々むせる程度でほとんど嚥下障害が目立たないため,スクリーニングとして反復唾液嚥下テストや改訂水飲みテストが有用である.
病変部位により,皮質・皮質下病変型,大脳基底核病変型,脳幹部(橋・中脳)病変型に分けられる.皮質・皮質下病変型では,失語や失行などの高次機能障害を合併しやすく,食事の際には意識レベルや認知機能の評価も必要となる.塞栓性機序が多く,抗凝固療法などによる再発予防が重要である.大脳基底核病変型の典型例は多発ラクナ梗塞であり,パーキンソニズムに加えて咀嚼や舌の運動が遅くなる.高血圧や糖尿病などの危険因子を有することが多いため,これらの管理による再発予防が重要である.脳幹部病変型では,小さな病変でも強い偽性球麻痺をきたすことがある.発症初期には球麻痺を呈することもあり,眼球運動や呼吸機能の障害にも注意を払う必要がある.
▼嚥下機能のスクリーニング方法
嚥下障害の診断におけるゴールドスタンダードな検査は嚥下造影である.しかし実施困難な施設も多く,また介護度の高い患者では検査後に誤嚥をきたす危険性があり,以下の方法が汎用される.
➊反復唾液嚥下テスト
口腔内を湿らせたあとに空嚥下を30秒間繰り返す.正常では30秒間で3回以上可能である.
➋改訂水飲みテスト
冷水3mLを嚥下させ,嚥下の有無や呼吸の変化などを評価する.正常では呼吸変化なくむせずに嚥下でき,追加の嚥下運動が30秒以内に2回以上可能である.