診療支援
治療

3 神経鞘腫(聴神経腫瘍)
neurilemmoma(acoustic neurinoma)
有田 和徳
(鹿児島大学名誉教授)

疾患を疑うポイント

●高音領域の聴力低下

●突発性難聴

●めまい

●若年者の一側難聴や耳鳴

▼定義

 軸索を取り囲む髄鞘は脳・脊髄では乏突起膠細胞,末梢神経ではSchwann(シュワン)細胞によって構成される.Schwann細胞から発生した良性腫瘍が神経鞘腫.

▼病態

 神経鞘腫の発生部位は前庭神経(85%),三叉神経(5%前後),頸静脈孔神経(舌咽・迷走・副神経)が多い.

 前庭神経鞘腫は聴神経腫瘍ともいわれ,内耳道底の前庭神経から発生する.内耳道を充満し,脳槽(小脳橋角部)に突出するようになり,やがて小脳脳幹を圧迫する.初発症状は蝸牛神経障害(耳鳴や聴力低下)が多い.聴力は高音域が障害されやすい.腫瘍が増大すると顔面神経麻痺,顔面の知覚低下(三叉神経症状),嚥下・構音障害(舌咽・迷走神経症状)を呈する.前庭神経の腫瘍だが,前庭神経症状を主訴とすることはまれで,これは対側前庭神経による代償のためと考えられる.腫瘍の圧迫で第四脳室が閉塞すると閉塞性水頭症,腫瘍から分泌される高蛋白滲出液による髄液吸収障害が原因で正常圧水頭症を生じる.三叉神経鞘腫では,顔面のしびれや顔面痛が,頸静脈孔腫瘍では嚥下障害や構音障害が主症状となる.

▼疫学

 神経鞘腫は原発性脳腫瘍の8~10%を占める.大部分は前庭神経鞘腫で,前庭神経鞘腫の好発年齢は30~60歳,女性にやや多い(1.3:1).神経線維腫症2型(neurofibromatosis type2:NF2)では両側前庭神経に発生し,若年発症が多く,成長速度は速い.

▼診断

 前庭神経鞘腫の初発症状は難聴(85%)と耳鳴(65%)である.耳鼻科で後迷路性難聴と正診され,診断に至ることが多い.聴力低下は突発性難聴のパターンをとることも多く,回復不能な突発性難聴の約8%に聴神経腫瘍が見いだされる.若年で一側性の難聴や耳鳴がある場合は,早めにMRIをとるほうがよい.MRIで

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