診療支援
治療

3 前頭側頭型認知症(ピック病)
frontotemporal dementia(FTD)/Pick's disease
新井 哲明
(筑波大学教授・精神医学)

疾患を疑うポイント

●初老期(特に50歳代)発症の認知症である.

●人格変化や行動の異常が主体でもの忘れは目立たない.

学びのポイント

●前頭葉の障害により,脱抑制,無関心,共感性欠如,常同などの特徴的な症状が生じる.

●タウ,TDP-43,FUSといった特定の蛋白質が細胞内に蓄積することにより神経変性をきたす.

●進行を止める根本治療薬はなく,治療は対症療法にとどまる.

▼定義

 前頭側頭型認知症(frontotemporal dementia:FTD)あるいは前頭側頭葉変性症(frontotemporal lobar degeneration:FTLD)は,前頭・側頭葉に限局した進行性の神経変性をきたし,特有の行動障害や言語障害を呈する症候群である.用語的には,臨床診断名にはFTD,病理診断名にはFTLDを用いることが多い.Pick(ピック)病という用語は,現在ではFTLDのなかの一病型を指す病理診断名として用いられるのが一般的であるが,かつてはFTDを指す臨床診断名として用いられており,本項では両者をほぼ同義として解説する.

▼病態

 特定の蛋白質が神経細胞あるいはグリア細胞内に蓄積することにより,神経変性が誘導される.原因蛋白質として,タウTAR DNA-binding protein of 43 kD(TDP-43),fused in sarcoma(FUS)が同定され,FTLD-tau,FTLD-TDP,FTLD-FUSという3つの主要な病理グループを形成している.

▼疫学

 諸外国におけるFTDの有病率は,人口10万人あたり2.7~35人であり,若年性認知症のなかで2~3番目に多い.わが国の地域疫学調査の結果では,認知症全体の1%〔Alzheimer(アルツハイマー)型認知症,血管性認知症,Lewy(レヴィ)小体型認知症についで4番目〕,若年性認知症の3.7%(血管性認知症,Alz

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