疾患を疑うポイント
●歩行障害,尿失禁,認知症の三徴があれば疑うべき.
学びのポイント
●歩行障害,尿失禁,認知症を三徴として,画像検索で,大脳皮質の萎縮に比して不釣り合いな脳室拡大を認める状態.
▼定義
くも膜下出血,髄膜炎などの先行疾患がなく,歩行障害を主として認知障害,排尿障害をきたす,脳脊髄液吸収障害に起因した病態とされ,適切なシャント術によって症状の改善を得る可能性がある症候群とされる.
▼病態
歩行障害,尿失禁,認知症を臨床的三徴とする.認知機能障害は記銘力の障害から始まることが多く,次第に判断力や見当識の障害を呈する.自発性が乏しくなり,周囲への関心や興味を示さず,思考や動作の緩慢が目立つのも特徴である.歩行は小刻みで,左右の足の幅が広い不安定な開脚歩行を呈し,尿失禁は比較的,遅れて出現する.頭蓋内圧は正常で頭痛や悪心は呈さない.
▼疫学
65歳以上の一般人口における頻度は1.4%(0.5~2.9%)と報告されている.
▼分類
くも膜下出血や髄膜炎に続発する二次性正常圧水頭症(secondary NPH)と,原因の明らかでない特発性正常圧水頭症(idiopathic NPH)に分類される.
▼診断
歩行障害,尿失禁,認知症の少なくとも1つ以上を呈し,60歳以上,ほかの神経疾患・非神経疾患で症候のすべてを説明できず,Evans index>0.3の脳室拡大があり,水頭症をもたらす明らかな先行疾患がない場合,possible iNPHとされる.腰椎穿刺テストで圧正常,脳脊髄液の細胞・蛋白質正常か,髄液排除試験(CSF tap test,タップテスト)で陽性の場合,probable iNPH,シャント術で効果があれば,definite iNPHとされる(図10-57図,58図).
▼治療
タップテストや腰椎持続ドレナージの効果が,シャント手術の効果判定に有用である.iNPHの治療はシ