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治療

【2】遺伝性脊髄小脳失調症
hereditary spinocerebellar ataxia(hSCA)
矢部 一郎
(北海道大学大学院准教授・神経内科学)

疾患を疑うポイント

●小児~高齢者のいずれの年齢でも発症しうるが,中高年以降に多い.

●潜在性に発症し,緩徐に進行する.

▼定義

 慢性進行性の小脳性運動失調を中核症状とする一群の優性遺伝性神経変性疾患の総称.病理学的には脊髄と小脳を中心とした系統変性をきたすものが多いが,病変の程度や分布は疾患により異なる.本疾患群は長らく原因不明の変性疾患として分類され,悪性腫瘍,代謝異常,栄養障害,中毒,免疫異常などに伴う小脳変性症とは区別されてきた.近年に至って分子遺伝学的な研究が進み,起因遺伝子の解明されたhSCAが増えている.

▼病態

 わが国で頻度の高いhSCAとして,脊髄小脳失調症1型(spinocerebellar ataxia type 1:SCA1),SCA2,Machado-Joseph(マシャド-ジョセフ)病(MJD),歯状核赤核淡蒼球ルイ体萎縮症(dentatorubral-pallidoluysian atrophy:DRPLA),SCA6,SCA31が挙げられる.

 このうちSCA31以外は,遺伝子翻訳領域内に位置するCAGリピートが異常伸長し,そこから異常伸長したグルタミンリピートを有する蛋白が翻訳される.それにちなんでCAGリピート病もしくはポリグルタミン病と総称される.異常伸長したポリグルタミンはユビキチン化されて核内に凝集し封入体を形成する.CAGリピート病では起因遺伝子のリピート数が多いほど発病年齢が若年化し,進行が速く,症状も重篤かつ多彩となる傾向がある.異常伸長したリピート数は親から子への伝達過程で不安定であるので,時にリピート数が増大することがある.それを反映して子どもでは発病が若年化し病像も重篤化することがあり,促進現象として知られている.

 現在まで起因遺伝子の解明されたhSCAにはトリプレットリピート病が多い.SCA31は原因遺伝子イントロンに位置する5

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