診療支援
治療

【3】痙性対麻痺
spastic paraplegia
矢部 一郎
(北海道大学大学院准教授・神経内科学)

▼定義

 緩徐進行性の下肢痙縮を主徴とする遺伝性神経変性疾患群の総称である.痙縮のみを主な徴候とするものをpure familial spastic paraplegia(pure FSP)として,付帯徴候を伴うものをcomplicated FSP(複合型痙性対麻痺)として区別する.起因遺伝子の解明されたFSPが増えている.

▼病態

 FSPは近年の分子遺伝学的研究の進歩にあわせて再分類され,現在データベース上には痙性対麻痺(spastic paraplegia:SPG)を主症状とする疾患が登録されている.すでに80疾患以上の存在が知られるに至っているが,そのうち優性遺伝性FSP(AD-FSP)に分類されるspastin遺伝子変異に起因するSPG4の頻度が約15~40%を占め,最も多いものと推定されている.劣性遺伝性FSP(AR-FSP)も存在する.

 SPG4はわが国も含め世界中で最も頻度の高いFSPであるので,その臨床像を記載する.発症年齢は0~74歳(平均29±17歳)で,大部分が40歳未満の発症であった.初発症状は下肢のつっぱり感,歩行障害,易転倒,下肢痛などであった.主症状の痙性対麻痺などの錐体路障害のほかに下肢振動覚低下(58%),尿意切迫(38%),凹足変形(21%),側弯(5%)などを伴っていた.大部分は純粋型であるが,認知症や振戦,手固有筋萎縮を伴う例も報告されている.認知機能低下を伴う場合もある.自然歴として,発症後平均25年で介助歩行,37年で車椅子レベルとなることが報告されている.また,家族歴の無い孤発例においてもspastin変異を有する例が報告されている.これらのことは遺伝子診断や遺伝カウンセリングの際に留意が必要である.

▼疫学

 わが国におけるFSPの頻度は,1988~1989年にかけての疫学調査により人口100,000人あたり約0.2程度の有病率である

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