診療支援
治療

4 肝性脳症
hepatic encephalopathy
和泉 唯信
(徳島大学大学院教授・臨床神経科学)

疾患を疑うポイント

●急性および慢性肝不全症例にみられる精神神経症状.

●精神症状と不随意運動.

学びのポイント

●急性および慢性肝不全症例にみられる精神神経症状.

●臨床症状,肝機能検査,頭部MRI,脳波などによって診断する.

●治療は便秘などの誘因対策と薬物療法が主体であり,軽症状態での治療介入が重要.

▼定義

 高度の肝機能異常に伴う代謝異常によって生じる精神神経症状であり,大きく急性型慢性型に分類される.

▼病態

 急性型は,急性(8週以内)に広範囲の肝細胞が壊死に陥る急性肝不全に伴って認める神経症状であり,高アンモニア血症に加えて脳浮腫の関与が考えられる.慢性型では,腸管内に生じるアンモニアなどの神経毒作用物質が肝で解毒されずに,シャントを通って大循環を経て直接脳内に達して生じる.アンモニアが肝性脳症を引き起こす機序としては,TCA回路を介するATP産生低下,脳内セロトニン系への関与,アンモニア代謝で産生されるグルタミンなどの関与が想定されている.

▼疫学

 慢性肝不全に起因するものが全体の7割以上を占める.

▼分類

 慢性型は肝硬変を基盤とし,肝細胞障害の強い症例(肝細胞障害型あるいは末期昏睡型)と門脈大循環短絡因子が強い症例(シャント型あるいは慢性再発型)に分類できる.臨床症状を認めず検査で異常を認める病態はミニマル(潜在性)肝性脳症と分類され,積極的な治療介入が必要な病態と考えられている.

▼診断

 臨床症状,肝機能検査,頭部MRI,脳波などの所見から診断する.

臨床症状

 急性型は,倦怠感,食欲不振などの急性肝炎症状で発症し,黄疸,頻脈,血圧低下などの肝不全症状とともに,意識障害を中心として,羽ばたき振戦,構音障害,錐体外路徴候,錐体路徴候,運動失調などを認める.羽ばたき振戦とは上肢前方挙上,手関節背屈位で最もよく出現し,筋収縮に中断を生じてパタッと手が屈曲し,また随意的に元に戻るもので

関連リンク

この記事は医学書院IDユーザー(会員)限定です。登録すると続きをお読みいただけます。

ログイン
icon up
あなたは医療従事者ですか?