診療支援
治療

(1)ビタミンB1欠乏
高松 和弘
(脳神経センター大田記念病院・脳神経内科)

学びのポイント

●Wernicke脳症は内科領域の救急疾患である.早期診断と早期適切な治療がきわめて重要である.

●Wernicke脳症ではビタミンB1投与前にブドウ糖を投与すると病態が一気に悪化する.

◎脚気ニューロパチー

▼定義

 ビタミンB1欠乏による下肢優位・遠位優位障害の亜急性運動感覚ニューロパチーである〔第6章「ビタミンB1欠乏症」の項()も参照〕.

▼症状

 下肢しびれ感やジンジンする異常感覚の自覚後,下肢脱力,歩行障害を生じる.

▼診断

 血中ビタミンB1濃度(正常値下限:20ng/mL)の低下がある.電気生理学的検査で下肢末梢神経に軸索障害型伝導異常を認める.

▼治療

 ビタミンB1を補充するがビタミンB12や葉酸などほかのビタミン欠乏症の合併にも注意する.糖尿病の合併例ではポリオール経路の異常を考慮してビタミンB12などを併用する.

◎Wernicke脳症

▼定義

 ビタミンB1欠乏にて視床,乳頭体,中脳水道,第四脳室周辺に壊死性出血性病変をきたし生じる脳症である.

▼病態

 妊娠悪阻をはじめとする食思不振に対する長期の点滴治療中の患者にビタミン添加がなされず医原性ともいえる同症が発症している.

▼症状

 意識障害(80%以上),眼球運動障害(30%),運動失調(30%未満)が三徴である.眼球運動障害は注視障害を主体とし,失調症は体幹性失調症を主体とする.三徴がすべて揃うのは10~20%にすぎない.

▼診断

 血液脳関門のため血中ビタミンB1濃度が必ずしも脳内濃度を反映するとは限らないが,20ng/mL以下に低下している場合が多い.MRIでは拡散強調画像やFLAIR画像で第三脳室や中脳水道周囲,視床内側,第四脳室底,乳頭体などに左右対称性高信号を認めることが多い.

▼治療

治療目標と原則

 Wernicke(ウェルニッケ)脳症は致死率が20%と高い.救命できても治療が不完全な場合には85%

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